主人には言わないで下さい…

「旦那さんの会社に知られたくはないんですよね」

怯える希美に見せつけるように、男はニヤニヤ笑いながら彼女の免許証を目の前に置いた。

「とりあえず、これはお返ししますよ」

(なんでこんなことに…)

きっかけなんてわからない。

もしかしたら軽い気分転換のつもりだったのかもしれないしストレスの発散だったのかもしれない。

あるいは決してバレてはいけないというスリルが興奮させたのかもしれない。

「やめてください、おねがい…っ」

こんなことするんじゃなかった、そう心から悔やんでも後の祭りで状況が好転するはずはないがそれでもそう思わずには居られなかった。

「遠藤…希美さんでしたね…家は近所ですよね」

彼女より随分年上である、伊崎と名乗るこの店の店長は不健康そうな頬のこけた顔をしており、爬虫類のような目つきは不気味で陰湿な雰囲気を醸し出していた。

「いやあ困るんですよねぇ。うちも、こういうことされちゃうと」

目の前にはつい先程、彼女が会計をせずに自分の鞄に滑り込ませた食料品が三点無造作に放り出されている。

「ま、万引きと入っても犯罪は犯罪ですし」

「すみませんっ…すみませ…でした…っ」

時間を巻き戻せるのなら、とどれだけ願った所で彼女が犯した行為は消えない。

名前も住所も、免許証のコピーも取られて逃げる事もできず…もちろん振り切って逃げ出そうなんて事は考えていないが、それでも酷く追いつめられた気持ちで彼女はただ項垂れて謝罪の言葉を繰り返す。

伊崎の目はそんな彼女の頭の先から爪先まで…長い髪や憔悴した瞳、服の上からでもわかるふっくらと大きな胸にむっちりと丸い腰、白い足…上から下へ、下から上へと卑しく舐め回すように見ている。

上玉だった。

ぽってりと厚く赤い唇に、切れ長な潤んだ瞳、青ざめた顔は年相応の色気を備えており、男のサディスティックなゲスい感情を掻き立てた。

店長なんて名ばかりである。

若い従業員には見下され休みもなく気付けば独り身のまま女っ気もなく、働けど働けど先の見えない雇われ店長の伊崎にとって、けして自分に逆らえない、弱みを握られた女というのは飢えた蛇の前に置かれた卵のようなものである。

そんな女の名前も住所も、旦那の勤め先も把握した伊崎は不思議な万能感を覚え始めていた。

「すみませんなら三歳児でも言えますから」

話す度にチラチラ覗くタバコのヤニで黄ばんだ歯が彼女に酷い嫌悪感をもたらしたが伊崎はこれから彼女をどういたぶるか、己の欲望をいかにこの眼の前の女で満たすかということしか考えていなかった。

「じゃあ、まー…規則は規則なんで他に盗んだ物がないか確認しましょうか」

よいしょ、と酷く面倒くさそうに店長は腰を上げるとこの小さな事務室にたった一つしかないドアの鍵をゆっくり回す。

その緩慢な動作は彼女をなおさら追い詰めた。

「わ、わたし…本当にこれだけで…他には何も…」

か細い声でそう弁明するがそれは一度罪を犯した者の言葉、信用に値しないと退けられてしまった。

たしかに自分のしたことを考えれば伊崎の言うことはなるほどその通りであり希美も仕方なしに諦めた。

しかし、問題はそこからであった。

「きゃあっ!や…やめ…」

「随分大きいですね、何か入れてます?」

確認、というからには鞄や服のポケットのチェック程度と思い込んでいた希美の胸を、事もあろうに両手で鷲掴みにしてきたのである。

「や、やめてください!こんなの…」

思わずその手を振り払って声を荒げる。

大きな瞳でキッと睨みつける希美に、伊崎は悠々とした態度で仕方ないなと溜め息を吐いた。

「反抗的な窃盗犯ですか、困りましたねえ…」

窃盗犯、とストレートな表現をされたことに冷静さを取り戻した希美はつい感情的になって伊崎に抵抗した自分の行動を後悔した。

変に意地を張ってもっと酷いことをされたら、もし家族に連絡されたらと思うと背中を冷たい汗が流れ、恐怖に足がすくむ。

「す…すみません…あの…」

希美は滲み出す涙を飲み込むと「確認をお願いします」と屈辱的で泣きたくなるような一言をどうにか絞り出し、胸を庇うように体に回していた両手を下げた。

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