「恵美ちゃん、ごめんね、ごめんね」
目の前で泣いてるのは、友人の瑞季(みずき)。
「恵美、もういいだろ?瑞季を責めるのをやめてくれ」
そう言うのは、私の彼氏の幸人(ゆきと)。
責めるのをやめてくれも何も、2人に会ってから今まで私はひとっことも喋ってない。
本当に「あ」一文字すら口にしていない。
繁忙期の貴重な休日の土曜日、睡眠を貪っていたら幸人に呼び出された。
待ち合わせの公園に来たら、私が何か言う前に幸人と瑞季による怒涛の昼ドラ開幕。
「とにかく、俺のことは諦めてくれ」
「ごめんね、恵美ちゃん。本当にごめんなさい」
どうでもええわ。
とにかく眠い。昨日も遅くまで残業だったんだよ。
「勝手にすれば?」
と私が言うと、2人は
「え?」
という顔になる。
「どうでもいい。勝手にすればいいじゃん。じゃあ、私は帰るから」
2人が何か言おうとするのを無視して、私は帰宅した。
眠いんだよ。くだらんことで私を呼び出すな。
幸人が浮気してるのは薄々感じてたけど、まさか私の友達に手を出すようなアホとは思わなかった。
もう元友達か。
そして、スマホがLINEやら電話やらの着信でうるさい。
私はスマホの電源を切ってから、また睡眠を貪った。
………
………
………
何時間眠ったか知らないけど、玄関のチャイム音で目がさめた。
居留守使おうと思ったけど、とにかく何度も鳴らされてうるさい。
私が出るまで押し続けるつもりか?誰だよ、めんどくさい。
「はい」と不機嫌全開でドアホンに出ると、
『ああ、あんた、無事だったみたいね』
と声が返ってきた。
改めて画像を確認すると、オカマバーのママであるナオちゃんだった。
「なに?ナオちゃん?」
と私が尋ねると、
『入れてくれない?雨が降りそうなのよ』
と言われる。
オートロックを解除すると、数分後にナオちゃんが私の部屋に来た。
「寝てたの?ごめんね」
そう言いながら、ナオちゃんは買ってきた弁当とお菓子を私に渡してくる。
「なに?どうしたの?」
ナオちゃんがアポなしで尋ねてくるのは珍しい。