あたしが入社する時でした。
安藤さんのカッコ良さに盛り上がったあたしに、女性の先輩は残念そうにこう告げたのだ。
「安藤くんは奥さんいるよ」
「え…」
「女性関係は徹底してるから浮気もしないしね」
「そう、なんですね…」
「悪いことは言わない。胸にしまっておきなさい」
「はい」
優しく諭してくれた先輩も、実は安藤さんが好きな時期があったと話してくれた。
知らないまま告白をしたそうです。
告白すると笑顔で安藤さんは「妻がいるんだ」と言っていたのでした。
だが、断る理由で結婚済みと言っていたのか、それとも本当に奥さんがいるのか。
あたしはそれを確かめるために、安藤さんの帰りに時間をもらい、誰もいない作業場で二人きりになって、そして告白。
やはり返答は「結婚してるんだよね」ということでした。
しかしあたしは「諦められません!」と言ってしまった。
半泣き状態で告白を続けていると、安藤さんはあたしに近づいてきて、真っ暗な暗闇の中いきなり押し倒されました。
状況を把握できず、ショートするあたしの頭の中。
安藤さんは相変わらずにこにこしている。
「聞き分けのない子は好きだよ」
そう言って急に胸を揉みしごきされる。
「んっ!」
思わず声にしてしまうと、安藤さんは自分の唇をぺろりと舐めて、真っ黒いようなオーラをまとい始めた。
抵抗しようにも両手首を安藤さんの大きな左手で一つにまとめられて、頭の上で抑え込まれた。
器用にワイシャツのボタンを外されてあらわになるあたしの両胸を舐めだす。
「んぁ…」
我慢しきれない、プラスひさびさの快感で抵抗なんて忘れてしまった。
視線はあたしに向けて、胸の尖端を舌先で執拗に舐めている安藤さんに興奮してしまったあたしは、「もっと」と言ってしまう。
答えるように安藤さんは連続で胸の尖端をちょいちょいとはじいた。
併せてあたしの声もちょいちょい出る。
満足げな表情になる安藤さんは、あたしの耳をあまがみしてつぶやいた。
「彼氏にはなれない。それでも好いてくれるなら、これからこうやって…」
耳たぶもあまがみ、舌先はそのまま首筋に移る。
「ひゃ…」
「艶のある表情と、快楽を得たときの声に、正直興奮した。だからこれからは内緒で気持ちいいことしてあげる。離れられないよ。もう、後戻りはできないからね」
そういうとあたしの手首を開放し、ボタンを付けなおしてくれた安藤さん。
あたしは興奮冷めやらずでぼーっとしていた。
「はい、んじゃ帰ろうか」
「ぁ、はぃ」
「…物足りないって顔だね」
それはそのはず。
中途半端に愛撫されて、セックスがしたくなってしまったから。
「安藤さん。続きがしたい、です」
「いいよ。じゃぁ、明日の17時に資料室で。ステータス(※)は研修で」
(※ステータスとは、自分が今何をしているかを知らせるもの)
「あ、あの、今日は…」
「物欲しそうな表情、たまらないね。だから最後まではしてあげない。明日ね」
お預け。
あたしはその日、自宅に帰ると自慰行為をして少しだけ解消させた。
翌日の指定された時間に、迷いに迷って資料室へ向かった。
どうしても安藤さんとセックスがしたくてだ。
あんな強引だけど離される感覚が、余計あたしの興奮スイッチをONにする。
奥さんがいる。
知らないよ。
体はずっと安藤さんを求めてる。
資料室へは共同階段やらの障害物を乗り越えた先にある。
ここは安藤さんが忙しいときに寝泊まりしたりの、安藤さん個人で管理している部屋だ。
あたしはおずおずとその資料室にたどり着いた。
「……」
緊張の一言につきる。
コンコン、とノックするとすぐに扉は開かれた。
「いらっしゃい」
「…お疲れ様です」
「そうとう俺とイケないことしたいんだね」
「……ぅう」
答えに困っていると、腕を引かれて中へ入り、安藤さんは鍵を二つ締めた。
決して唇同士のキスはしない。
けれども身体中にはキスをくれる。
感じる場所を的確にキスをしたり、舌で刺激したりとする。
あたしはすぐにでも身体がショートして立っている足ががくがくしてきた。
気づいてくれた安藤さんは、膨れた自分のものをこすりつけるように密着させ、立っていられるように支えてくれた。
こうしてあたしたちの不順な関係が始まったのでした。