21歳になる娘の結婚式当日、準備だ挨拶だと気疲ればかりの一日が無事に終わった事に安堵していた。
勿論大事な娘の嫁入り、大きな喜びはある。
しかしそれ以上に仕事の合間を縫っての打ち合わせや向こうの家との食事会等をもう当分はしなくていいことに喜びを感じていた。
「自分も通った道とは言えやっぱり大変ね、結婚式って」
笑顔の娘を見たら自然と自分が結婚した時のことを思い出してしまう。
何も知らずに看護学校を出たばかりの19歳で結婚。
出産前後も仕事に明け暮れて気がついたら夫とは疎遠になっていた。
夜勤のある病院へうつったことにより夫婦仲は更に冷えた。
彼も海外出張が多く一年の半分以上家に居ない。
決して不仲というわけではない。
けれど、最初は頻繁に連絡をしていたもののそう時間が経たないうちに電話も手紙も来なくなった…そんな中でも娘はまっすぐに育ってくれた。
「今は本当にホっとしてるわ」
式の翌週、優子はコーヒー片手に正面に座る友人にそんな胸の内を話した。
学生時代からずっと仲の良かった彼女ももう私と同じ42歳。
彼女はお疲れ様、とねぎらいの言葉を言うと乾杯をするようにアイスコーヒーのグラスを掲げた。
「優子もこれから第二の人生の始まりね」
「第二の人生って大げさね」
「あらそう?でもこれで子供や家の事を気にせずに二度目の青春を謳歌できるのよ?熟年離婚って増えてるらしいし」
熟年離婚、その言葉にドキリとしつつも、離婚だなんて面倒な事しないわよと笑う。
「ま、女の喜びを満喫するにはもう遅いわよね、お互い」
「女の喜びねぇ…私には縁のない話だわ」
そう笑ってはみたものの、もう十年以上も夫とはセックスレス。
もし味わえることなら少しくらい、という気持ちはあった。
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でも、もうこの歳で出逢いだの恋愛だのは面倒だしなぁ…
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その晩、ノートパソコンを開いて友人から聞いた単語を打ち込む。
「出張ホスト」なんて今までに聞いたこともない単語で検索するとあっという間に数十万の検索結果が表示された。
驚きながらもいくつかのサイトに目を通していく。
そうしている内に疲れて眠ってしまったが、結局翌日もその次の日も夜な夜なパソコンのモニターを眺めては葛藤に頭を抱えた。
カップルやSEXに関するカウンセラー・コンサルタント・単に割りきってSEXするだけの相手を募集する男性、女性…これまで知らなかった世界を覗いたようで優子は数日の間、画面越しにその異様さを眺めるだけに留まっていた。
「来月の頭から仕事でチェコに行ってくるよ」
「あら、今度は随分遠いのね。この前は中国だったわよね…」
「あぁ、他に行けるやつがいなくてね。何ヶ月行くんだったかなぁ」
娘の居ない二人だけの食卓。
来月から当分の間、この家には私一人しか帰らない…優子は昨夜も眺めていたいかがわしいホームページの数々を思い出していた。
「あなた、おかわりは?」
「半分くらい貰おうかな。あまりいっぱいはいらんよ」
自分で稼いだお金でサービスを買う。
エステのようなものだと考えれば、浮気じゃないわ…
そんな考えが頭をよぎり胸が高鳴った。
「チェコの女性はさぞかし綺麗でしょうねぇ…夜遊びできる場所は近くにあるの?」
「何言ってんだ。…まぁ付き合いで飲みに行くぐらいはするかもしれんがそのくらい良いだろ」
「やぁね、ダメなんて一言も言ってないじゃない。ふふ」