ある温かい静かな午後、
インターホンが鳴って、菜摘は急いで玄関に向って鍵を開けた。
「おう!久し振りだね!」
そこには
菜摘は彼を家に入れて、リビングの、さっきまで菜摘が座っていた大きなソファに座らせた。
「ホントに今日はいないのか?」
「うん。出張でね、明日までいないの」
菜摘は麦茶を注いだコップを二つ持って来て、一つを彼の前に差し出した。
「裕太は明日の何時に帰って来るの?朝?それとも夜か?」
そう聞いて直樹は麦茶を飲んだ。
ゴクンっ、と喉が鳴って、彼は黙っている菜摘の方を見た。
「たぶん夜の十時くらいじゃないかな?まぁ、午前に帰ってくる事は先ずないと思うけど」
そう言って菜摘もまた濡れたコップを持ち上げて、一口で半分くらい飲んだ。
「じゃあ今日の晩はずっと一緒に過ごせるなぁ」
そう言うと直樹は菜摘の腰に手を回して、体を寄せると、少し赤らんだ頬にキスをした。
「直樹はいつまでいられるの?明日の朝まで?」
「ん?いやぁ、実は一回五時までに行かないと行けないところがあってさ。それが終わったら朝までいられるよ」
「そうなんだ」
菜摘は直樹の体にもたれ掛かってボンヤリ
菜摘の視線の先には麦茶の残ったコップが二つある。
外から恐らく下校中の子供たちの騒ぐ声が聞こえる。
菜摘は何だか憂鬱な気分になってしまった。
ずっと前から悩んでいた直樹との関係に対する罪悪感が、いま、彼と会って話してみて、いよいよ彼女の心にそれは憂鬱となって重くのしかかってきた。
………
………
「ねぇ、あのさ、やっぱりわたし、駄目だと思うのよ。この関係」
菜摘はなるべく直樹を怒らさないようにと思って、ハッキリと直截的には言わずにボンヤリと、そして口調も何だか弱々しい感じて言い出した。
彼は眉を上げて口を少し尖らせて、首を動かしながら麦茶を一口飲んだ。
ゴクンッ、と再び音が鳴る。
菜摘は恐る恐る上目遣いをして彼の方を見た。
彼は何か深刻に考えているようで、右手で麦茶を軽く回しながらそれをじーっと見つめていた。
それは何だかバーで酒を片手にもの思いに耽るイケメンのような雰囲気があったが、その雰囲気は彼の無精髭と禿げかかっている坊主頭とでブチ壊れてしまっていた。
菜摘は変な気持ちになった、今までの心のベクトルが擦れ違いガタガタと崩れるようだった。
なんでこんな人をわたしは好きになったんだろう…
菜摘は直樹の思案に
菜摘は直樹と直樹に惚れた自分にイヤな不愉快な気持ちを抱いた。
直ぐに別れたくなった。
この心情の変化は一体何なのだろうか?