本当に涙をこぼすんじゃないかってくらいのウルウル目。
あれ、才能だと思う。
志信にそれとなく聞いたら、姑は昔からだって。
昔から人に何か親切にされても、絶対にお礼を言わない。
その代わり、ウルウルした目でそっと陰のある微笑(姑認識)を浮かべながら相手を見るらしい。
それが姑なりのお礼なんだってさ。
「私に微笑まれたら、皆、嬉しそうな顔をするから。だからお礼に微笑するの」だとよ。
それ、嬉しそうでなくて苦笑してるんじゃないの?
そしてかまってちゃんの姑は、皆が楽しそうに話をしている時も自分が知らない話になるといきなりお茶をひっくり返して皆の注目を集めようとしたり、何かにぶつかって「痛い、痛い」と泣き声を出す。
基本、皆で無視してるけど、1度は階段から落ちるふりをしようとして本当に落ちた時はさすがに焦った。
でも一応病院には行ってみたところかすり傷程度だったから、皆は必要最低限の親切しかしなかった。
そしたら、むくれて1人で部屋に籠って泣いちゃってた。誰も相手にしなかったけど。
こんな姑だから、子供達の世話なんてまともにしなかったようで。
「叔母さんがいなかったら、俺達は絶対まともに生きられなかった」と志信は常々言ってる。
志信のお父さんは志信が小学生の頃に病気で亡くなってる。
とても良いお父さんだったそうだけど、ある日、突然「癌」が発覚。
既に末期だったらしい。
当然妻である姑が世話をするべきなのに、彼女は布団をかぶってただグズグズ泣くだけ。
結局まだ中学生だった志信のお姉さんが弟達を連れて父親のお見舞いに行ったり、洗濯物を持ち帰ったり差し入れを持って行ったりしたんだって。
幸い、志信の実家の近所には姑の妹夫婦が住んでいた。
叔母さんは優しくて、グズグズ泣くだけで子供達の面倒すら放棄してる姑に代わって志信たちの面倒や舅のお見舞いなんかに行ってたらしい。
叔父さんも優しくて、塞ぎこむ志信たちを遊びに連れて行ってくれたとか。
そんなある日、とうとう舅の最期が近づいた。