「目、腫れてるけど」
「泣いたので」
「え、泣いた?」
「ちょっとね、失恋しちゃって」
5歳上の彼は、入社した時から私の面倒をよく見てくれる良いお兄さん。
仕事と飲み会が好きで気さくな彼は私の失恋を知ると今夜は楽しく飲みに行こう、と誘ってくれた。
「俺が奢ったるから楽しみに待っとって!」
それが今朝の事。
そしていざ飲みにきたは良いものの、気分は一向に晴れず私はお酒を飲みながら口を開けば溢れる元カレの愚痴を垂れ流していた。
山田さんは “そうかーそれは大変だったなぁ” と適当に聞いてくれるのだが、その優しさに甘える自分が情けなくて泣きそうになってはビールを煽る。
それを繰り返しビールのジョッキ7杯目の最後の一口を飲み干した頃にはすっかり酔いが回っていた。
「菜奈ちゃん飲むなぁー」
彼は感心したように呟いて二杯目の梅酒を飲む。
「らってー…山田さんのオゴりれしょー…れも、そろそろお開きにしますかぁ…」
ふと時計を見ればもう随分遅い時間。
明日の仕事を考えるとこれ以上の長いはキツい。
山田さんはすっと立ち上がり店員に会計を頼む。
コートを着ていても外の空気は冷たかった。
けれど悲しさも怒りも随分和らぎ嘘のように心が軽くなっていて、むしろその寒さが心地よかった。
「山田さん、今日は、ありがとうございます」
「おー、どういたしまして。タクシー拾おうか」
「いえ、近いし歩きます。酔い覚ましには丁度いいですし」
方向同じだし送るよ、と並んで歩いてくれる彼の手が、ふと私の手の甲に触れた。