「真鍋」
「っ!!」
あたしは我に返る。
いつの間にか玄関で呆けていたみたいだ。
楓くんを追いかけて、でもだめで。
このマンションは専務からいただいたもので、隣が専務の部屋だ。
あたしは朦朧としている中、専務の部屋の前で寝ていた様子。
「せ…専務…あたしはこのまま生きていていいのでしょうか」
怖いことを聞くようにあたしの声は震えていた。
「ん?」
「だって…ヒック…あたしの人生はないようなものだから…」
「ある」
「ないです」
「あまり俺の女を貶すようなことを言うな」
「…え?」
「あの日から、お前は俺のたった一人の女だ」
グッと来た。
だって嘘でもその言葉はうれしかった。
愛情が互いにあるのだと確信したから。
涙があふれる。
それを愛おしそうに慰めてくれる。
「なぁ、咲菜」
ここであたしは、初めて名前を呼ばれたと気づく。
「せ…」
「真鍋咲菜は俺を好いてくれるか?」
「!」
「俺はいつだって…お前にセフレができたときも俺は、お前だけを好いている。…この……今も」
あたしは抑えられなかった。
「ま、真鍋咲菜は、黒木悠斗さんを…愛しています…」
「本当か?」
「嘘は言いません」
専務の…悠斗さんの首元に巻き付いたように抱きついた。
するとすぐさま悠斗さんは抱き返してくれる。
甘くていい香りの悠斗さん。
この大きな身体に抱きつけた。
ずっと…
ずっと…
この時にあたしはわかった。
あの日からあたしはあなたに恋していましたってことを―…