揚げ出し豆腐をつついて、そういえば、冷奴の時期に雄司と2人でよく飲むようになったな、と思い出す。
「雄司って修羅場に突入したんだっけ?」
「まぁ、彼女の家に行ったらヤっちゃってたんで、そうなるんスかね」
「やっば。お揃いじゃん」
「え、同棲してたっスよね?」
「うん。私も使うベッドで、くんずほぐれつ、にゃんにゃんあはん」
「救いがねぇ〜……え、じゃあ元カレ追い出したんスよね?」
「そこだよ、問題は。出ていかないんだ、アイツ」
「は?」
「最初はさすがに謝られたけれどさぁ……『魔が出しただけ』って言い訳が始まった後、『そもそも俺の家だし』って言い出してね? 確かに向こうが契約した家で、家賃はあっち持ちだけど、生活費は私が出しているのにねぇ」
「いや、そういう問題……?」
「ちなみに『別れよ』って言ったら、『なんでそうなるんだよ』ってキレられたので、合意を得てはいない」
「……あ?」
「いや、顔怖いわ」
「ありえねぇだろ、それ」
おいおい。過去一、ドスの効いた「あ?」なんですけど。
雄司が真顔で目を見開くと、もとより
………
………
「まぁ……だから、私が出て行ったの」
「引っ越ししたんスか?」
「そんなトントン拍子に家が見つかるわけないじゃーん? とりあえずウィークリーマンション暮らしよ。明日あたりからはホテル暮らしかなぁ……いや〜セレブ気分? いっそリッチウーマン?」
お金かかるぅ〜、なんてふざけて言ったのに。
雄司の取り巻く空気が2°くらい下がって……すごい物騒な顔をしている。
「あー……そんな深刻に捉えなくていいからね?」
「いや、無理でしょ。自分が好きな女がそんな扱いされているとか」
いや、好きってアンタね、と。
先刻に「お試しで」って情けない告白を受けたことを思い出して、なんとなく居心地が悪くなる。
雄司のため息はアホほど長かった。
「先輩、選んで欲しいんですが、俺が今からクソ野郎に一発かまして追い出すのと、今日から俺の家に泊まるの、どっちにします?」
「いや、物騒かよ!」
「マジなんスけど」
「ダメダメ! 殴る価値もないよ、あんなの」
「じゃあ俺の家に仮住まいで。はい決定!」
「ねぇ、なんかテンションおかしくなってない?」
「おかしいのは先輩の元カレの頭っス」
「マジそれな。いや、そうなんだけどそうじゃなくて……ってややこしいな!」
「先輩、今、ピンチだって思いません?」
ぐい、って。
顔を近づけられて。
射抜くような視線が、私に嘘を許さない。
「その日暮らしみたいなこと繰り返すのって、金もかかるし、普通にストレスですよね? どう考えても不便じゃないですか」
「ソウデスネ……」
「知っての通り、俺は重い男なんで、好きなコのピンチは俺が全部拭い去りたいです」
「おぉ……そう来たか……。いや、アンタの家に泊まったら、私の貞操もピンチじゃない?」
「隙があったら食いに行きますね」
「そこは誠実なフリしときなよ!?」
「『お試し期間』なんで、セールスできるところは売り込んでなんぼでしょ」
ジョッキに半分以上残っているレモンサワーを一気飲みして、タッチパネルで会計に進む雄司。