学校の先生は、昔からの夢だった。
別に学校が好きだったわけではないが、人に何かを教える、というのが好きだったのだ。
だから、大学は迷うことなく教育学部のある大学を選んだ。
興味のあることだから授業は面白く、山下さきなは毎日が充実していた。
「初めまして、山下さきなです。この高校出身なので、皆さんの先輩、ってことになります。一生懸命頑張りますので、二週間どうぞよろしくお願いします!」
教育実習の初日、さきなは緊張しながらもクラス全員の前でそう挨拶をした。
2年生のクラスで、男女が半々の一般的なクラスだ。
中年の男性が担任の先生で、とても平和で温かい雰囲気のクラスだった。
ぺこりと礼をしたさきなに、生徒たちは拍手をする。
真ん中あたりの席に座っていた男子生徒が一人、その中で立ち上がった。
身長は170センチ後半ほどの、しっかりと筋肉がついた、それでいて高校生らしい雰囲気を持つ生徒だ。
にこりと笑う雰囲気がまるで子犬のようで、かわいい年下の男の子、という印象をさきなに与える。
「僕、学級委員の
すると、クラスメイトから冷やかしの声が聞こえてくる。
ヒュー、さすが、などと言った声を手であしらって、英治は恥ずかしそうに笑った。
まさにクラスの中心人物、といった彼に、さきなもにこりと微笑み返した。
授業の準備をしたり、レポートを書いたり―――
忙しいとは聞いていたが、教育実は想像していたよりもいろいろなことをしなければならなかった。
それでも昔からの憧れということもあり、毎日が充実している。
たった二週間の期間しかない教育実習だが、クラスの生徒たちとはすぐに仲良くなった。
みんな人懐っこく、「さきな先生」とよって来てくれるのがとてもかわいらしい。
英治もそのうちの一人で、毎日屈託のない笑顔でさきなに話しかけてくれる。
一週間たつと、英治のことも色々とわかってきた。
サッカー部の部員で、勉強もまあまあ出来る。
真面目で、それでいて明るくて茶目っ気のある男子生徒だった。
(もてるんだろうなあ……)
それがさきなの英治に対しての印象だった。