マリカが目を覚ますと、 目の前には草原が広がっていた。
今まで自分は何をしていただろうか。
頭がぼーっとして思い出せない。
頭上には真っ青な青空が広がっていて、優しく頬を撫でる風は初夏のそれだった。
「あれ、私何してたんだっけ?」
そう呟いて片手で頭をかくと、カシャリと金属の音が聞こえた。
「ん、何これ……?」
音の聞こえた方を見ると、腕には金属の鎧のようなものがついている。
あまりゴツくはないが、軽く叩かれるぐらいなら全く痛みは感じないだろう。
「なんだっけこれ?本当に分かんないや……なんかの出し物とか……?」
目の前の状況が理解できずに、マリカは一人で立ち上がる。
すると突然 後ろから何かの動く音がした。
ガサ、と草の揺れる音もする。
「――何?」
マリカが振り返る。
何か透明なものが すごい勢いでマリカに飛びかかってくる――
避けようとしたが、間に合わなかった。
一気に足を取られ、草の上へとマリカの身体が倒れこむ。
足首がつかまれている――それはぬるりとした、粘着質で柔らかい感触がした。
「ちょっ、とお……っ!」
振りほどこうと足をバタバタと動かしたが、それは全く離れる様子はない。
それどころか、同じようなものがマリカの両手首にも巻き付き、身体の自由を完全に奪われてしまった。
それは、透明な「触手」だった。
まるで巨大なタコの足のようにうごくソレの、本体は小さく丸い。
マリカから少し離れた場所に本体があり、そこから飛び出た何本もの触手がマリカに巻き付いていた。
「こ、れって――」
そこで、ようやく気が付いた。
これはマリカがやっている、スマートフォンの冒険RPGゲームの世界だということに――。
マリカの装いは、まさにマリカ自身が使うキャラクターの恰好だった。
まだ始めたばかりということもあり、装備は初期のものだ。
シンプルなシャツにショートパンツ、最初の町でもらった金属の鎧は、ほとんど意味をなさないレベルにしか防御力はない。
「うそ、なにこれ、どういうこと!?」
まさか、ゲームの世界に来てしまったのか――マリカが混乱している間にも、触手はマリカの身体を這いまわる。
両手足を動けないように捕まれたまま、本体からはさらに何本もの触手がマリカに伸びてきていた。
ぬる、ぬる、とした感触が、Tシャツの上からマリカの身体をなぞっていく。
Tシャツが濡れ、肌に張り付いているのが気持ち悪い。
太ももの形を確かめるように這う触手に、マリカは身体を震わせた。
生ぬるい感触は、まるで巨大な人間の舌のようにも感じられる。
分泌された粘着質な液体が身体に塗りたくられているようで、そこがなんだかじわじわと熱くなってきているような感覚がした――
「っ、はなっ、してよっ……!」
マリカがなんとか身体をねじって抵抗するが、触手は離れていく気配がない。
それどころか、マリカの腕に着けられた金属の装備までも、軽々とマリカから奪い去って草の上に放り投げられてしまった。
武器はない。
丸腰で、誰もいない草原で、触手に襲われている――
絶体絶命としか言いようがない状態だった。
身体を這いまわる触手が、突然ピタリと動きを止めた。
一瞬、解放されるのかとマリカが期待した瞬間、それは形を変えてまたマリカの身体に吸い付いてくる――
「えっ、うそちょっと……っ!」
つるりとした形をしている触手の何本かが、マリカのTシャツをたくし上げる。
下着を無理やり上にずらされ、太陽の下で、マリカの上半身が晒上げられた。
白い柔らかな乳房に、触手が迫ってくる――
触手は先端の形を変え、ツルリとしたものの他に、まるでイソギンチャクのような形をしたものが何本もマリカの視界に入ってきた。