第三章:ひっかかる
「……」
あれ以来、健人はなんだかあかねが気がかりでしょうがなくなる。
今更恥ずかしいという感情はないがどこかひっかかる。
「なんですか、専務」
「いやぁ」
「視線感じます」
「そうかそうか」
流しながらも視線はあかねへ。
なんだか困っているあかねは、健人からするとかわいく思える。
他人をそういう目で見ることは初めてだった健人。
「では、これで帰ります」
仕事も終わり、帰宅時間。
そこへ健人の兄の尊人が、健人を通り過ぎながらあかねの机に来た。
「こんばんは、古屋さん」
「あ、副社長?」
「今日食事でもどうかな」
この言葉に、近くに座っていたあかねの同僚はかなり驚いていた。
なにせこの副社長は人嫌いだからだ。
ましてや女性のうわさなんて一ミリもないことで有名。
「!?ちょ、あの」
「古屋さん、いいよね?じゃぁいつもの場所で待ち合わせだからね」
あかねはきょろきょろし、挙句顔を若干赤くさせていた。
これは匂う、と思った健人。
そして、男として彼女のほほを赤くさせる兄が腹立っていた。
「今日は残業だから駄目だよ、古屋くん」
「あのすみません。今日は予定が入りました」
「絶対ではないでしょ」
からから、と笑っている健人。
だが予想外な回答がある。
「申し訳ございません。あの人との約束が優先なので」
健人の頭は真っ白になった。
納得できず口を開く。