気がつけば、時間は夜21時を指していた。
思ったより遅くなったが、残業が長引いたという事にしておこう。
「沙耶ちゃん、また来る?」
「多分ね」
事後処理を終えながら、そんな会話を口にする。
スーツやストッキングは、空調のおかげもあって殆ど乾いていた。
私は身支度を整える。
「次はいつかな」
「わかんない、気分次第」
そんなやりとりに、少しだけ空しさを覚えた。
私はこれから自宅へ行き、何もなかったかのように「ただいま」と言うのだろう。
イライラしていた気持ちは、激しいセックスの後で落ち着いていた。
「じゃあね、ありがとう」
「いつでも来ていいから」
そう言葉を交わして、彼のマンションを後にする。
雨は――既にあがっていた。
「夕飯、コンビニで買ってこようかなあ」
胸を刺す罪悪感と共に、私は駅の方へと歩き出した。
きっと、いつまでもこのままの関係を維持していくのは難しいだろう。
けれどそれまでは、――また、彼の家に行く。
帰宅してみたら、案の定旦那はコンビニ弁当で済ませていたらしい。
既に布団に入って熟睡していた。
その隣。私のスペースがあることに、言いようのない罪悪感を覚えた。
メイクを落としシャワーを浴びると、ルームウェアに着替え、彼の隣で眠る。
そしてもう一度あのセックスを思い出すのだ。
私が女として成り立っているという事実からくる安心感に、身をゆだねながら。
そう、もう少し、もう少しだけ――。
- FIN -