「着拒しとこうかな?」
「やめときなさい。火に油だよ。
それより恵美ちゃん、もう1台スマホ持ってたよね?」
「うん。仕事用の」
「ならうるさい方は音を消して、もう1台をメインに使えばいいよ」
仕事用のプライベートな連絡先は、ナオちゃんと玲衣ちゃんのように信用できる人の物しか連絡先をいれていない。
「そうするわ」
私は手に持っているスマホの電源を切った。
「あんたを呼び出して説教する、謝らせるなんて言ってるらしいよ、瑞樹のお仲間は」
「スマホの着歴見ても、何かおかしくなってるのが増えてるみたいだし。マンションに押しかけられても困るな。当分ホテルとタクシー使うかな」
「そんなことしなくても大丈夫。私に任せて。ただ、あんたを面倒に巻き込むかもだけどいい?」
「もう既に面倒が起きてるから、問題ないよ。ナオちゃんのお言葉に甘えるわ」
それからしばらくして、ナオちゃんは「明日連絡するね」と言って帰った。
入れ替わる形で玲衣ちゃんが来てくれたので、朝まで愚痴っていた。
玲衣ちゃんのスマホも、私ほどではないけどしょっちゅう着信がきていた。
玲衣ちゃんの安全が心配だけど、彼女はタイミング良く月曜日から半月ほど遠方に出張するとのことなのでしばらくは安心だろう。
翌日の昼にナオちゃんに呼び出されてお店に行くと、ナオちゃんと1人の男性がいた。
俳優かと思うほど顔立ちが整っている人で、デザイナーの仕事をしているとのことだった。
「向井大地(むかいだいち)君。うちの常連さんなの」
ナオちゃんが紹介してくれる。
「初めまして」と言う向井さんは、声もすてきだ。
「向井君がしばらく恵美ちゃんのボディガードをしてくれるから」
ナオちゃんがそう言った。
「ボディガード?いらないよ。私の面倒事に巻き込んで申し訳ないし」
「大丈夫ですよ。俺は揉め事が好きですから」
「え?」
向井さんの言うことに呆気に取られてる私に、ナオちゃんがそっと耳打ちする。
「向井君はこう見えて結構歪んでるのよ。気にせず、甘えちゃいなさい」
こんな感じで向井さんが私のボディガードをしてくれることとなった。
向井さんは顔が良いだけでなくて話上手でもあって、浅くつき合う程度だと何の問題もない男性に見える。
彼とは10日ほどのつき合いだったけど、家から会社まで毎日送り迎えしてくれて会社の女性陣からは羨ましがられた。
でも、何だか私は向井さんがリスクの高い人に思えてならなかった。
うまく言えないけど、向井さんの表情には違和感がある。
そんな私の気持ちを見透かしたように、ある時向井さんはこう言った。
「警戒しなくても大丈夫ですよ。俺はあなたのような賢い女性には何もできませんから」