「あーおもしろかった!!」
「‥‥‥」
これは上が店長で、無言の下があたし。
「どうしたんだい?」
「‥‥‥いえ、何も‥‥‥」
「あ、もしかして‥‥‥俺がサイコホラー選んだセンスに驚いた???」
「怖すぎですメンタル崩壊映画過ぎる!!でもでも、めちゃくちゃ面白かったです!!!!」
意外や意外、あたしこんな破滅的な映画も面白いとは‥‥‥。
最高!!でも、終わってしまった‥‥‥店長とのデート。
でも十分楽しかったからいいや。いい思い出だし。
………
………
「じゃぁ帰ろうか。もう23時になりそうだし。車に向かおうね」
いい思い出?
「はいー」
こんなに胸が高鳴っているのに、帰らなきゃないの?
店長、あたしのこと本当に本当に、バイトの子としか思っていないのかな。
なんの利益もメリットもないけど、これでも奥さんよりもあたしの方が店長を好きだって言えるよ?
あたしなら元気じゃなくても、貯金崩させるんじゃなくて、他の道を探そうとできるよ?
それなのに‥‥‥今の店長の奥さんはズルいよ。
表に出てこないであたしに喧嘩売ってる。
「?時東ちゃん??」
「‥‥‥ぁ‥‥‥」
「?」
車の運転席のドアを開こうとしている店長の前であたしは
不思議がる店長。
でもこれが、あたしに残された最後のチャンス。
………
………
「‥‥‥て、んちょう。あたしじゃ‥ダメですか?」
「‥‥‥」
「あたし本当に店長が好きで好きで、いつだって店長のこと考えて行動してるよ?自分も調子悪くならないように、すれ違う日々がないように必死に奥さんに対抗意識燃やしてる。あたしは本当に、店長を、愛してる。愛してるよ‥‥‥」
「‥‥‥うん、気づいてた。」
「なんで何も言ってくれないの?映画なんて誘わないで。‥‥‥もう、バイト辞めます。最後に思い出をくれてありがとうございました。お幸せで」
ぽたり、ぽたり、と大粒の涙が目から流れてる。
そうだよ。あたしはこれでいいんだ。
なのに、なんで―‥‥‥
「おいで、みゆちゃん」
「!!!!」
「こういう話は車でしよう。泣かせてる俺が言うのもなんだけど、俺‥‥もしかしたら映画に誘われたかったのかも」
「‥‥‥店長?」
「名前で呼んでくれたら良い事教えてあげるよ」
「な、な、な‥」
車にかけていた手を下ろして、あたしをふわりと大きく抱きしめてくれた。
「可愛いね。俺は我慢できなくなってもいいのかな?」
「ぅ、はい。我慢しないでください」
「じゃ、遠慮なく」
そう言って、店長‥‥‥
「‥‥‥帰りたくありません」
「はは。俺も、帰したくいないな」
‥‥‥