恋のはじまり

大好きなバンドマンに手を引かれ…

私がブレスレットをプレゼントした、辛い時に私を声で慰めてくれた彼が、私の目の前に立っていた。

彼の手首にはさっき私が渡したブレスレットがはまっていて、誰もいない楽屋のような小さな部屋の中で、私をじっと見つめている。

「え――?」

状況が理解できず、私の間の抜けた声が部屋に小さく響く。

彼はそれにくすりと笑い、「ごめんなさい」と握っていた手首が解放された。

目の前に、彼が立っている――

まるで夢のような現実に呆然としている私に向けている彼の視線は、あまりにも甘い。

彼の口から出た言葉は、信じられない内容だった。

「あの、初めて来てくれた時って…二年前のライブですよね。

僕、実はずっとあなたのことが気になっていたんです」

ドッキリかと思うような内容に、私は何も答えられない。

ただ、心臓だけがうるさいほどに高鳴っていて、身体中の血が沸騰してしまったかのように熱く――抵抗できないままに、いつの間にか私は、彼の胸の中にいた。

彼の腕が私の背中を包み、彼の顎が、私の頭に当たっている――そんな状態で、抵抗が出来るはずもなく。

彼の唇がそっと近づいてくるのを、私は瞼を下ろして受け入れた。

柔らかい唇が私の唇を優しく食み、彼の舌がそっと口内へと入り込んでくる。

頭では状況が理解できていないのに、私の身体はすぐに適応した。

彼の舌が私の上あごをくすぐると、ぞわりと甘い快感が身体中を駆け抜けて力が抜けてしまう。

私も彼の舌に舌を絡ませ、夢中になって彼とキスをした。

飲み切れない唾液が顎を伝い、腰が抜けてしまわないように彼に必死になってしがみつくように抱きついた。

ドッドッと彼の心臓の音が聞こえてきて、これが現実なのだと脳みそが理解し始め――私は彼に抱きかかえられて、ソファへと優しく押し倒された。

照明が少しだけ暗めに設定されているこの楽屋で、彼の顔はうっすらと暗い。

いつも写真でみていた顔だ。ライブハウスでは、遠くから眺めていた顔。

塩顔で、笑うと優しい、いつの間にか大好きになっていた顔。

その瞳は静かに、しかし確かに劣情の光を宿して私を見つめていた。

どくんっ、と心臓が一度大きく震え、身体が動かなくなる。

まるで食われる前の小動物のように、彼に身体の自由を奪われてしまったようで――そんな私の状態を知ってか知らずか、彼の掌が私のTシャツを腹からまくり上げていく。

「あ……」

汗で少しだけしめったTシャツは彼のライブのオリジナルのもので、鎖骨のあたりまでまくり上げられて、ブラジャーが彼の前にさらされた。

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