翌月の夜勤明け、優子はバスルームからタオル一枚巻いた姿でリビングに入り、喉を鳴らしてビールを飲んだ。
そしてノートパソコンにこっそり保存しておいたあるページを開く。
都内ならどこにでも出向いてくれるという性行為アリの出張ホストの紹介ページ。
そういった事に疎かった優子も二ヶ月近く調べ続けるうちに出張ホストがなんなのかようやくわかってきた。
性行為が無く自宅でお酒を作ったりお喋りしたりといった健全なホスト行為のみを行うものと性行為のあるものとがある。
また、レンタル彼氏なるものも知った。
優子は当たり前のように性的サービスのあるホストを選んだ。
「こんにちは、○○クラブから来ました、桑原です」
「あ、こんにちは…」
自分で電話して呼んでおきながら、やっぱり帰って欲しいと思うほど緊張していた。
立っていたのは小型のトランクを持った男性。端正な顔立ちに清潔感のある綺麗な肌、歳は私よりずっと若い。
焦げ茶色をした少し長めの髪。
もしかしたら10歳は年下であろう若い男をリビングに通す。
なんでもないように他愛ない世間話をしながらも紅茶を淹れる手は小さく震えていた。
「主人とはセ…セックスレスなんです。随分前から」
浮気はしたくないからSEXは抵抗がある、けれど快感は得たい…ぽつりぽつりと話す彼女に、彼、桑原は二、三質問を投げた。
オナニーはどの位するのか?
今までにオーガズムを経験したことは?
等といった答えにくい、聞かれただけで赤面してしまうような質問に、できるだけ恥ずかしがらないよう淡々と答える。
(ただこれからすることの為に聞いてるだけ)
そう自分に言い聞かせながらも体が火照るのを止められなかった。
「ひ…1人でした事はありますが、その…あまり上手じゃないのか、ちゃんと満足できるというわけでもなくて…」
そんな話しが一段落した所で、二人は寝室へ向かう。
高さのないローベッドに腰掛けて、桑原はおもむろにトランクを開けた。
その中には透明なカバーに包まれた大人のオモチャ、小袋に入れられたコンドーム、ローションかオイルらしい液体のボトルにタオルが数枚とウェットティッシュ…他にも必要になるかもしれない物がきちんと整頓され収まっている。
「まぁ凄い。…ねぇ、これは何?」
グレープフルーツ程度の大きさをした、丸い形の機械。
優子はなんとなしにコロンとした可愛らしいそれを指差した。
「あぁ、これはアロマディフューザーです。お好きな香りを焚きましょうか?」
差し出された幾つもの小瓶を嗅ぎ比べ気に入った香りを1つ選ぶ。
それから「暖かいほうが感じやすくなりますよ」と彼に言われて暖房の温度を少し上げた。
暖かく薄暗い部屋に甘い花の香りが満ちる。
優子はうっとりと目を閉じてベッドに上体を預けた。
男はいきなり襲い掛かってくるようなことはせずにゆっくりした動作で彼女に近づく。
「触れてもいいですか」