枕元にあるリモコンで電気をつけると、ベッド近くの床にどことなく透けてる気がする若い男の子が鼻を手で押さえていた。
「だれ!?あんた!警察呼ぶよ!?」
「警察を呼んでも無駄ですよ。だって俺、一応幽霊ですもん」
リビングのローテーブルの前に座って、幽霊君はゆっくりお茶をすすってる。
自分でもよく分かんないままに、私は彼にお茶を出していた。
改めて見ると、幽霊君はイケメンだ。
「ねえ、あなたは本当に幽霊なの?何でお茶を飲めるの?」
「何ででしょう?」
「逆に聞いてくるな」
そう言いつつも、ポケっとした彼の顔を見ていると、私は笑いそうになった。
「お茶なんて久しぶりに飲みました。ありがとうございます。えっと…」
「木皿儀柚奈。ユズでいいよ。あなたは?」
「俺は
「じゃあ改めて、シュン君は本当に幽霊なの?」
「はい。証拠を見せましょうか?」と言うと、シュン君は姿を消した。
私は「本当みたいね」と再度現れたシュン君に言った。
「シュン君はどうしてここにいるの?成仏できなかったの?」
「う~ん。自分でもよく分かんなくて…」
「何か未練でもあるの?自殺だから、何か思い残したこととか」
「自殺?誰が?」
シュン君はキョトンとした顔になる。
「え?そこのロフトの柵にロープを結んで首を吊ってたんでしょ?」
「いや、死因は合ってるけど自殺じゃないですよ。事故です」
「え?」
「ロフトにダンボールをまとめたのを置こうとしたんですが、
「…」
「俺、死因が自殺になってるんですか?ああ、だから母さんが『どうして?どうして?』って言ってたんですね」
悲惨な事故の話のはずなのに、なぜか同情心がわいてこない。
「じゃあシュン君は、何かに悩んで自殺じゃないんだ?」
「俺、悩みなんてないですよ?」
「…そんな感じだね」
「あっ!でも、未練の心当たりはあります!」
「未練の心当たりって、何か表現がおかしくない?何が未練なの?」
「え~っと…。実はですね、俺、童貞でして…」
「は?」と、私はマヌケな声を出す。
表情もマヌケになってると思う。
「いや!女性は分からないでしょうが、男にとって経験無しで死ぬのはものすごく心残りで…!」
「そうなの…」
「何か俺が住んでた部屋にきれいな人が来たなと覗きこんでたら、殴られたんですよ」
シュン君は照れ笑いをする。
「きれいって誰が?」
「ユズさんですよ。ユズさん、きれいじゃないですか」
「幽霊は視力が落ちるの?私のどこがきれいなの?ブスと言われたことはあるけど」
「俺、アホだけど視力だけは自信ありますよ。ユズさんは自分の魅力から目をそらすタイプ?」
私は何だか笑えてきた。
なぜか、腐れ妹とヘボ元婚約者のことで傷ついてるのがバカらしく感じられた。
「ありがとう、シュン君。じゃあお礼に、私で童貞卒業する?」
「え?」