決めた。
………
………
慎吾だけが…
じゃなくて…
あたしも…
そうしよう!
………
………
早速、近くのバーに行くことにしたあたしは、
かなり服装にこだわって着替え始める。
慎吾と一緒に外食したりする日に必ず身に着けている香水がある。
今日はわざとその香水をつけて他の男性と会おう。
そう、することにした。
…………
…………
…………
マンションを出ると、やはり周囲はとても暗くて、
夜ひとりで歩くことがそうそうなかったので、
あたしは少し怖かった。
けれども教訓を決行すべく、あたしは歩き出して、エレベーターに乗り込んだ。
8階から下の階へ降りていると、5階で停まった。
エレベーターの扉が開くと、若い男性が段ボールを抱えて乗ってくる。
「すみません、でかくて」
「いいえー」
あたしは身をのけぞって段ボールの男性をエレベーター内に入れた。
扉は締まって再度動き出したエレベーター。
しかし突然がたっと揺れて緊急停止してしまった。
「!?」
驚いていると、先ほど乗ってきた男性が段ボールを下ろして、
冷静にエレベーター非常時緊急電話を鳴らす。
しかし音沙汰はない。
「あー…もしかして夜停まるパターン?今ちょうど0時だけど」
「え?あ、えぇ、どうなのかな…」
いきなり話しかけられて驚いていたあたしに、
男性はスマートフォンの明かりをつけて、光が広がるように床に置いて言った。
「これなら少し灯りあって落ち着くよね?」
かすかなライトに移りだしたのは、色白で明るい表情の男性。
見た目は…だいたい20代後半くらいかな?
「暗いのは怖いっすよね。でも、ひとりよりはマシかな」
「そうだね、うん。それより段ボールを乱暴に置いてたけど大丈夫ですか?」
「大丈夫。紙類しかないから」
「よかった」
「やさしさありがとう」
こんなことでお礼を言われるなんて、なんだか素直に喜んでいいのかわからない。
こういう感じ自体久しぶり。
だって家事に追われて昼間以外は誰とも会わずに過ごしていたからだ。
この人…優しい人なんだなー。
自分のものより他人のあたしの心配をしてくれるし。
……慎吾の昔よりも優しいなぁ。