打ち上がる短冊に思いを込めて
花火大会は通っていた高校から少し離れたところにある大きな川の河川敷で行われる。
その会場に1時間前の午後7時頃に到着したタクちゃんと私の2人は、まずは早めに花火が見やすい場所を確保して、他の観客に混じって待つことにした。
あらかじめ早めに来たことで、特等席といえそうな一番見やすい場所を取れた。
そこまでタクちゃんが私の手と取って引っ張っていってくれた。
大きくてゴツゴツした男らしい彼の手のひらにドキドキしたのと同時に、
すごく安心感を感じた。
私の地元では、毎年抽選で当たった人の願い事が書かれた特製の短冊を火薬玉につけた花火を打ち上げてくれるのが習慣だ。
偶然にも今年は母親が抽選に当たったみたいだが、私の就職が上手くいくようにと私に短冊に願い書く権利を譲ってくれた。
親に就職のことを書くと言っておいたが、実際は、好きな人と結ばれるようにと書いた。
花火師の人に見れれてしまうのに、まさか好きな人に抱かれたいなんていう、そんな下品な願いを短冊に書けるわけがない。
結ばれると書けば、体が結ばれるという意味でもいけるかと考えてそう書いた。
母親には申し訳ないと思いながらも、そのように書かずにはいられなかったのだ。
もちろんその好きな人とは、タクちゃんのことだ。
帰省して彼と再会したあと、日に日に彼への思いがどんどん強くなっていき、4年前の片思いだった頃の自分に戻っていた感じがした。
再び動き出した恋時計の秒針が、まるで早く告白しろとでも問いかけているかのように、私の心を彼に近づけようと無言のプレッシャーをかけてくる。
短冊に願いを込めて神頼みするぐらい、それだけ私はタクちゃんへの熱い思いがもう抑えきれなくなってきていたのだ。
そんなことを考えていると、突然ドカンという地響きするぐらいの大きな音が鳴り、夜空にまぶして華やかな光の輪の花が咲いた。
「きゃっ!」突然の大きな音に私は驚いて無意識にタクちゃんの胸にしがみついた。
しばらくしてわれにかえり、彼に抱きついていたことに気づき、恥ずかしさのあまりあたふたしながら彼の胸から離れた。
「ははは、幸恵はホント怖がりだな。」
どぎまぎしている私を見て彼は笑いながらそう言った。