「つーか男見る目なさすぎっスよね……って、鮎原先輩?」
一間あり、大島君はぎょっとのけぞる。
「な、いて、んスか」
「……え?」
視界がやけに暗いと思ったら、滲んだそれが頬へ伝う……ぼたぼたとこぼれ、熱いしずくは止まらない。
「……」
沈黙は、重苦しかった。
大島君はバツが悪そうに顔を
だろうね、と思った。
あなたにとって、なぜ私がそんなにも気に入らないのかはわからないけれど。泣かれた以上、サンドバッグとしては興もさめるのでしょうね、と。
「あーちくしょ……鮎原先輩さぁ。デリカシーも人間性もかけらもないようなあの男の、なにがそんなによかったんだよ」
「……え?」
「泣いて傷つくほど好きだったんですよね?いやフラれたんだから現在進行形?まぁどっちでも気色悪いよ」
「……大島君には、わからないだろうね」
「はぁ?」
「未練なんかないよ、とっくに。ただ、彼……寺尾君は、こんな私のこと、付き合っていた時は、可愛いって言ってくれたから。この人の傍で、可愛がって、好きで、いてもらえたら、幸せになれそうだと思っていたから。だから……」
――私を好きで、いてほしいと、思ってしまった。
「はっ……なんだよそれ。つまり、鮎原先輩は可愛いって言ってくれる相手なら誰でもいいってことかよ」
「……あなたがそう思うならそれでいいよ。もうほっといて。大島君にはわからないことなんだってば」
「わかるわけねぇよ!性格がつまらないだの、不感症だの、付き合っていた相手をネタにするクズに怒りもしないあんたの気持ちなんて!」
「……っ!だったら!」
――もう私のことなんてほっといてよ!
その言葉を続けることができなかったのは
「……え?」
大島君が、私の事を強く、その胸板に押し付けるように抱きしめたから。
ふわっと香る男の人の匂いと、汗の臭い。
後頭部をがっしり掴まれているから、顔を見上げる事もできない。
息が詰まるほど強い力で……それは、しがみ付いているのにも似ていた。
「いつまでもくだらねぇ男のことなんか引きずってんじゃねぇよ。鮎原カエデ」
言うなり大島君は私の耳にガリっとかみつく。
「痛っ……い、たい!」
逃げようと胸板を叩いてもびくともしない。
大島君は軟骨をはむっと唇ではんだかと思えば、その形をゆっくりと舌でなぞった。
「あ……は!やっ!くすぐった……!」
何かが背筋をぞくぞくと走り抜け、触れられた箇所がじんと火照る。
ゆっくりと首筋を唇で撫でられたとき、胸の奥がきゅうっと疼いた。
「んんんっ!」
熱い吐息に肌が泡立つ。
くすぐったい、だけじゃない。
異変に戸惑う私をよそに、大島君は舌を耳から首筋に走らせ、シャツの襟を
「んんんっ!」
ちくん、とした痛み。
でも、それは甘いなにかを含んでいて……
――なんで……気持ちいいの……?
耳や鎖骨を舐められているだけなのに、アソコがじゅんっと潤むのを感じる。
「はっ。すっげぇ心臓早い……」
大島君はシャツの上から胸を掴む。
「や、やめて……」
無遠慮な手はシャツの上から胸をもみくちゃにする。
恥ずかしさのあまり顔を隠そうとしたけれど、その手は彼のネクタイで拘束されてしまった。
「や、やだ!放して!今なら誰にも言わないから……」