「綾李の義弟って智くんって言うの? イケメンだね! いいなぁ!」
「今度紹介してよ! てか、家に行っていい?」
智目当ての同級生に囲まれることが多々あって……
しかも、智の同級生から露骨にやっかまれることも続いた。
バレンタインなんて最悪だ。
「智くんに渡してね」
と、デパートの紙袋に収まらない量が来る。
智が受け取らないから、私に押し付けられた大量のチョコ。
それをそのまま智に渡そうとしたら
「ふざけんじゃねぇよ!」
と怒鳴られた。
お返しなんてもちろん用意しない。
だから、事件は起きる。
………
………
「智くん、私からのチョコ受け取っていないって言ってるんだけど、どういうつもり?!」
確かに「受け取っていない(受け取らない)」のだから嘘ではない。
わざわざ本人まで確認しに行くバイタリティがあるなら、最初から本人に渡してよ、なんて言える訳もなく。
こんなことを繰り返しているうちに、友達もいなくなった。
私は高校卒業と同時に家を出て、寮のある職場を探した。
智の父は「大学に進学してもいい」と言ってくれたけれど、未だ「お父さん」と呼べない自分が恥ずかしくて、断ってしまった。
最初の一年はお金の工面が大変だから、家から通えばいいと言う、母の意見に逆らった。
だって、どこからどう考えたって。
この家は、私がいない方が成立している。
(私って……本当にどうしようもない……)
だから、家族とこれまで以上に物理的距離を取れる今回の転勤は、ラッキーだと思っている。
(……ていうか、智はなんで平日の昼間にいるんだろ)
………
………
智の尋問を切り抜けて(黙っていただけ)、自室に入る。
「あ……」
私が生活していた時よりも、綺麗に整頓された部屋。
(……帰ってくるの、待っていてくれたんだろうな)
直接言葉にされたことはないけれど、母は、家族に溶け込めない私のことを、諦めないでいてくれたんだろうな。
鼻の奥がツンとして、慌てて作業に取り掛かる。
キャリーケースに詰め込める荷物は、もうほとんどない。
卒業アルバムとか、もう着ない服とか、漫画や本、教科書……。
全部、
「……よし」
無心で勧めた作業は1時間足らずで終了。
あとは、アレを探すだけ。
両親の部屋に入ろうとするところを、智に止められた。