車の向かった先は彼女の家…ではなく病院からも真希の家からも離れたホテルだった。
「ここは…」
「彼女にしたい女だと思わせてくれるんだろ?」
福山はソファの背もたれにバサリとコートを放り投げた。
「先生って…実は結構意地悪?」
「なにが意地悪だ。ここに来たかったのはお前の方だろ?」
そう言われてしまうと言葉が出ない。
今夜は帰りたくない、なんて言っちゃったし…
…こうなったら覚悟を決めるしかないのかも。
先生に会う日はどこを診られてもいいようにムダ毛の手入れもバッチリだし、下着だって可愛くしてるし…
「か、彼女になってくださいって言わせてみせますからね」
「へえ、そりゃ楽しみだね、頼もしい」
いよいよだ!と体に力が入る。
真希も福山に習い鞄と上着をソファに置いた。
これから二人でベッドに…
………
………
………
「…の前にちょっと待って。シャワー浴びてくる」
調子の狂う一言に脱力してしまった。
そりゃHの前にシャワーを浴びるのは大事だけど…物事にはなんでも例外ってものがあるじゃない。
この空気なら二人はそのまま抱き合ってベッドに倒れ込んでキスして…って流れじゃないの?
「わ、わたしシャワー浴びてきました」
「そうですか…」
「浴びなくても私は気にしないですよ」
「今日は感染症の患者さんが診察中に酷く吐いちゃって」
「いってらっしゃい」
白衣を着ていないとお医者さんだってことを忘れそうになるなぁ、と真希は一人、ベッドに腰掛けて深く深呼吸をした。
いきなりの展開に胸がドキドキして頭がクラクラする。
期待していなかったと言えば嘘になるけど、まさか、本当にこうなるなんて…でも後悔はしていなかった。
とは言え真希はごく普通の大学生らしく人並みの経験しかない。
それも過去に付き合った数える程度の人数とだけの行為で、付き合ってもない相手とするのは初めてだった。
「絶対、彼女にしたいって言わせてみせるんだから…」
強気な態度で挑んだ以上私から積極的にした方がいいのかな?
そういえば彼氏彼女じゃない場合、キスってどうするの?
初めてHするのにあんまり積極的じゃ引かれちゃうかなあ…
…そうだ、私もシャワー浴びたほうが良いかな?…
…家出るときに浴びたけど…
一人でいると他愛もない疑問が浮かんでは消える。
ラブホテルらしいきらびやかな照明の下、大きすぎるほどのベッドに一人横たわった。
そうこうしている内にシャワーを終えた彼がバスローブ姿で部屋に戻ってきた。
真希は慌てて起き上がり大きくまくれたスカートの
「脚、なんで隠すの?」
「え?いや…ついなんとなく…ですけど…」
「ふーん…まあいいけど。どうせ脱がすし」
彼の、濡れた髪に温まったせいで上気した顔が変に色っぽく見えて真希は思わず目をそらす。
やっぱりかっこいい…