「……私さ、元彼とは二股かけられて別れたんだけれど、影で『飯女』って言われてて……。性格的にはとっくに別れたいけれど、家事ができるから傍に置いているだけって会社で触れ回っていたんだよね」
噛み合わないことは多々あった。
それでも、それは相手を馬鹿にして、他人を巻き込んでまで中傷するほどのことだっただろうか。
二股をかけられていたことより、家政婦扱いされていたことより、無邪気に悪意を向けられたことが一番悲しかった。
「部署は違ったけれど、二股の相手も同じ会社だったし、なんかもう何もかもどうでもよくなって辞めたんだ。いまだに安定した職場には付けてないけど、後悔はしてない。……ただ、誰かと付き合うって、あれ以降、考えてこなかったな」
「……辛かったですね」
「あはっ。暗くならないでよ。私だって飯田君に感謝しているんだ。飯田君はちゃんと『美味しい』って食べてくれる人だったから。私一人のときは、家事もなかなかやる気がでなかったんだけれど、料理をする自信っていうか、余裕を取り戻せたのは飯田君のおかげだもん」
「じゃあ、恋愛する自信と余裕も、僕で取り戻しませんか?」
え、と聞き返すより早く、飯田君は私の手を取り、ぐいと引き寄せる。
「僕なら、あなたが傷ついた分だけ優しくします――だから、泣くなら、僕の前で泣いて下さい」
線が細い、大人しそうな人だと思っていたのに。
しっかりと分厚い男の胸板に抱かれ、じわりじわりと私を傷つけたものたちが溢れていく。
(そういえば私……ちゃんと、泣いたっけ?)
ぞんざいに扱われるたび、別れ際に突き放されたとき。
傍にいてくれないなら、慰めてくれないから。
泣くのだって、やめてきた。
「う……わ……ぁああああ!」
私は飯田君にしがみつき、声を上げた。
子供のように泣きじゃくり、肩を震わせる。
(私は、ずっと。泣いていいよって、言われたかったんだ)
欲しかったものの輪郭が鮮明になり、それを逃がさないようにかき抱く。
飯田君は何も言わず、私の背中に腕を回し答えてくれた。
どのくらいの間、そうしていたのかはわからない。
互いの心臓をぴったりと重ね合わせるように抱きしめ合ったとき、自然と唇が重なる。
「ん……ふぁ……」
角度を変えて、唇をすり合わせると、飯田君がぶるっと震えた。
反応してくれたことに、私も少し恥ずかしくなって赤面してしまう。
視線がぶつかり合うと、もっと恥ずかしくなって、お互いそれを隠すようにキスを重ね、やがて深く絡めていく。
「ん……服……邪魔だね?」
対面で抱き合っていたから、飯田君のそれが熱く固くなっていることに気付いていた。服の上から優しく撫でてあげると切なそうに眉を
「……これ以上は止まれませんよ」
「ん……止めないで、欲しいな……」
飯田君の手を取り、私は自分の胸へ持っていく。
飯田君は宝物に触れるように胸を優しく撫でていたけれど、やがて手つきが大胆になっていく。
「はぁ……んんっ……や、ぞくぞくする……っ」
飯田君は私の服をもどかしそうに脱がせながら、首筋に唇を這わせ、耳を舌で舐る。
あらわになった胸の頂も、ちゅっとついばむ音を立ててキスをした。
「あっ……くすぐった……!」
舌でころりと転がすように乳首の輪郭をゆっくり撫でられると、外気の温度差にふるりと震えた。
飯田君は自身も服を脱ぎ捨てると、私をベットへ横たえる。
お互いに一糸纏わぬ姿で、一ミリも隙間なく抱きしめ合う。
「……あったかい」
触れ合った肌だけじゃなくて、身体のナカからじわじわと満たされる。
えっちなことをしていて、ドキドキしているはずなのに――私、すごく、リラックスしている。
「少し、触りますね」
「ひゃあっ!」
飯田君は私の耳元で