雨の日に名前も知らない人とたった一度の…

結婚前はバリバリに働いていた私が専業主婦なんて想像もしていなかった。

いつも考えることは、取引先のこと・・・ではなく、夕飯のメニュー。

子育てと家事に追われ、息子が小学生に上がると少しは心の余裕もできてきた。

でも、社会から遠ざかって数年経つと夕飯のことしか考えてない自分にガッカリというか…

仕方ないことなのだけど、なんだろ・・・なんとも言えない空虚感みたいなのを感じてしまう。

いっそ、パートでも初めてみようかしら?

でも私に何ができるのかしら??

そんなことを考えながら買い物を終え、重い袋を片手に私はふらふら帰っていた。(あ、嫌だ、雨降ってきちゃった…)

さっきまでカンカン照りだった青空が一気に真っ暗になり、降り始めから激しく雨粒が落とされる。

かなりの勢いで傘を持っていない私を雨が叩きつけた。

濡れて困るものは買ってないけど、良い気持ちはしない。

とりあえず雨宿りにと駆け込んだ所にはすでに1人、ずぶ濡れの先客が困り顔で立っていた。

アラサーの私より少し若い。

濡れたスーツとメガネ。

清潔感のある爽やかな黒髪は細く、少しふわっとした猫っ毛で色白、綺麗な顔立ち。

どう見ても仕事中に不運な雨に濡れたサラリーマンだ。

雨に任せて駆け込んだはいいけど、

まさか先客がいるだなんて・・・外だけれどまるで狭い箱に入ってしまったくらいの

気まずい感じだ。

ただただ、雨の音だけが聞こえて、この数分が長く感じる。

「あ…ひ、ひどい雨ですね」

話しかけてきたのは彼からだった。

きっと彼も同じ気まずさだったのだろう。

「そうですね、すっかり濡れてしまいましたね」

なんて他愛無い話をしている内にイントネーションの違和感に気がつく。

聞いてみると随分遠くから仕事で来ているそうだ。

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