修学旅行、高校生活の一大イベント。
2泊3日、日本海に面した地への旅行。
相応しいとは言い難い旅行先だった為に出発直前まで不満の声が多かったが、親しい友人らと行動を共にすれば全てが「楽しい」に変換されて生徒それぞれが思い出を形作っていた。
そして宿泊先の旅館が大変素晴らしく、満足度の高い1日目が終わろうとしていた。
「本当に行くの」
「うん。一緒に入る?」
「嫌だ。人に見られたら終わりじゃん」
時計の針は0時を指しており、消灯時間の22時から少し眠った事になる。
陽菜は学校側から入る事を禁止されている露天風呂に浸かろうとしているのだった。
入浴可能時間は2時までとなっているので、人気の少ない深夜にこっそり入るしかないと陽菜は考えたのだった。
温泉好きでもあるが好奇心旺盛な性分の為、規則通りに入らないという選択肢は無かった。
「男女共用脱衣所…混浴…露天風呂」
黒い
露天風呂に浸かりたいだけであって、混浴は決して望んでいない陽菜。
立札の注意書きには、湯船にタオルを浸けない事、水着・湯浴み着の着用を禁止とあった。
この暖簾の先へ行くにはそれなりの覚悟が必要だった。
先客がいたなら引き返せば良い事で、入浴中に人が来たらどうにかして隠れるか素早く上がれば良い事だと陽菜は思った。
8畳程の脱衣所には衣服を入れる12個のカゴがあった。
どれも空である事を確認して陽菜は衣服を脱ぎ、早急に露天風呂のある戸を開けた。
「わぁ…綺麗」
周りの木々や自然が風呂を取り囲み、所々に設置されたライトが幻想的な空間を作り出していた。
肌寒いが長風呂をするには良い具合だった。
丁寧にかけ湯をして、静かにつま先から湯に入る。
心地良い湯加減が陽菜の身体を包み、ぬめりけのある湯がねっとりと肌に吸い付いた。
「気持ちいぃー…」
幸福感に満ちて日々の邪念がようやく消え去った頃だった。
ガラガラと戸の開く音が陽菜の耳に入る。
「え…人!?」