マニアック

専務とドキドキ

静まりかえるこの空間と、少しだけ香る消毒液の匂い。

懐かしさを感じるのは初めてではなかった。

うっすらとよみがえっていくあたしの記憶。

どうやら眠っていたみたいだ。

 

一筋のまぶしい光があたしの眼光を直撃する。

思わず眉間にしわを寄せてしまった。

おかげさまで、交わしたかったシチュエーションであたしが寝ていることがバレたんだ。
………

………
「‥‥‥鈴木すずきくん?」

あぁ、はいあたしです。

「起きているんだろう?」

起きたくありません。

「なら力づくだからな?」

「ごめんなさい起きます!!!」

 

この人は、スーツ姿の美形な男性。

あたしの所属する会社の専務にあたる人。

あたしが今、お付き合いしている人だ。

「どうしたんだ美帆みほ。倒れるなんて縁起でもない」

「それは昨日専務が何回も何回も‥‥‥!!!」

「ここで話せば長くなるけどそれでもかまわないのかな?」

ニヤニヤと口の端を釣り上げて笑っている。

こんの‥‥エロエロ専務め!!
………

………

滝山たきやま専務、お仕事戻ってください。あたしはもう少ししたら戻ります。このままじゃ専務と医務室とかなにかよからぬことを考える要素ある人が、今日出勤してきてますので」

あたしは布団を頭までかぶって、専務が出ていくように仕向ける。

だけどここで引き下がるような専務ではないことを

あたしは知っているのに、気づくことが遅くて後悔した。

 

少しするとシンとなる。

この医務室は鍵は一つしかなく、鍵を持っている人が医務室に入ってしまえば、誰も中に入ることは出来ない。

その鍵は社長以外の人は持ち歩きはできないのだ。

「‥‥‥忘れたのか?」

意外と耳元で滝山専務の声がした。

ハッと布団から顔をせば、ギシ、とベッドをきしませて笑顔で専務がベッドにわって入って来る。

あたしは慌てて専務を押し付けるも、まったくびくともしない。

少しだけあまりはちみつの香りが専務から漂ってきた。

思わずその香りをかいでいると、専務は不思議そうに見つめてくる。

「あ、いえ、専務がはちみつの香り選ぶって不思議だなぁと思いまして」

「‥‥‥気になるか?」

「へ?は、はい」

「他の女の香りかどうかってことか?」

誰もそこまで聞いていない。

それに‥‥むしろそこまであたしが考えることがあるかもしれないことを想定しているの?

第一そのほうが怪しすぎる!!!
………

………

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