ある晩、美幸はいつものようにベッドの上でうつ伏せになりながら、松井龍太郎のTwitterをぼんやり見ていた。
すると突然、ほんとうに突然、美幸はダイレクトメールを送ろうと思った。
「なんて送ろうかな?」
美幸は少し考えてから、こんなメールを送った。
「こんばんは!松井さんのファンです!!!もし良かったらお会い出来ませんか???」
美幸はこれを送って直ぐ、大笑いしてしまった。
「何この文章?こんなこと書いてしまうのはなぁ…情けないわぁ…。これで返信する奴なんか馬鹿でしょ」
美幸は恥ずかしくなってTwitterを閉じて電気を消した。
そして暗闇の天井を見つめながら、明日の体育のテストについて考えていた。
するとスマホが鳴って、返信が来ていた。
「マジでぇぇぇ?!ありがとう!!m(_ _)m美幸ちゃんはどこに住んでるの?」
美幸は一瞬恐ろしくなった。
なんで私の名前を…?
と思って、しかしよくよく考えれば自分のアカウント名がそのまま自分の本名だったことを思い出して、再び意味もなく笑った。
そして美幸はどうしたら良いのか、迷ってしまった。
美幸は返信が来て、少しでも嬉しく思ったことが非常に悔しかった。
美幸は自分がなんだかんだ未だに松井龍太郎のファンであることに気付いた。
美幸の色々と冷めていた心は、少し温めるだけで以前の新鮮な好意を取り戻した。
この心理の変化を美幸は全く理解出来なかったが、それを受け入れることはスンナリと出来てしまった。
「東京に住んでます」
五分ほどして、どの辺?と聞かれて、世田谷の〇〇と返信した。
「へぇー、そうなんだ。今会える?」
美幸は胸の内から喜悦の念が湧き上がって来て、顔を赤らめた。
22時36分。
両親は下のリビングでテレビを見ている。
父親はお酒を飲まず、又きちんと睡眠時間を確保しないといけないという人だから、恐らくもうすぐで寝るだろう。
問題は母親だった。
母親はいつも寝るのが遅かった。
早い時でも0時を過ぎた。
美幸はどうしたら良いのかわからず、困ってしまった。
そもそも美幸は未だ17歳なのだから、こういう誘いは断るべきなのだが、その決断は一生に一度の奇跡を取り逃すような気がして、出来なかった。
「会えます!!どこにいるんですか?!お家ですか???」
返信が来た。
「今??駅の近くで一人で飲んでるんだけど、来れる?」
美幸は少し迷ってから、
「大丈夫です」
と返信して、準備した。
財布とスマホとリュックを持って、美幸は部屋を出て階段をゆっくりと降りた。
父親が丁度お風呂に入っていて、ソファには母親が、何か編み物をしていた。
美幸はバレぬように身を隠して母親を見守っていた。
母親がトイレに行った瞬間を見計らって、素早く家を出ることを計画した。
トイレは玄関より向こうにあって、耳の遠い母親には鍵の開閉した時に鳴る音は聞こえないだろう。
それから暫くして、母親は急に立ち上がってトイレの方へ向かった。
美幸は母親の姿が見えなくなって、音を立てないように、しかし急いで、玄関へ向かった。
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