僕は人見知りでコミュ障のクズだから、今まで女性と親しくなる機会なんてなかった。
幸い顔面はそこそこ良いらしく、時々女性から声をかけられることもあるが、みんな一言二言話すとそそくさと去っていく。
僕は気の利いたことなんて言えないし、それどころかまともに返事をすることもできない。
引き攣った笑顔を浮かべて「あ……」とか「う……」とか呟いている僕のことなんて、誰も好きなってくれやしない。
そう思っていたけれどーー。
「
先月から隣の席になった彼女は、そう言って社交辞令じゃない笑顔を浮かべた。
今までこんなふうに僕に接してくれた女性はいなかった。
その日から僕は、出社するのも仕事するのもちょっとだけ楽しくなったし、気がつくとずっと彼女のことを考えるようになっていた。
今日は初めて、勇気を出して僕から話しかけもした。
「じゃ、じゃあ、さよなら、笹野さん」
「はい!お疲れさまです、犀川さん」
彼女はとても嬉しそうに笑うと、僕の方に体ごと向けて丁寧にお辞儀をした。
帰路につく彼女を窓から見つめながら、僕は汗ばんだ掌をぎゅうと握りしめ、こみ上げる笑みを噛み殺した。
「これって……君も僕が好きってこと……だよね?両想いってやつ、だぁ」
僕はたまらなく嬉しくなって、急いで荷物をまとめ、彼女の後を追いかけた。
………
………
………
初めて入った彼女の部屋は、すっきりとしていながらも所々に女性らしさが漂う、とても好ましいしつらえだった。
暗さに強い僕の目なら、窓から差し込む月明かりだけでこうして細部まで把握できる。
普段から引きこもって暗い部屋で過ごしていたことが、こんな形で役に立つなんて思わなかった。
やはり彼女とは運命的な何かがあるのかも知れない。
「僕はいいけど、君は電気がないと見難いんじゃない?」
「さ、犀川さん……ですか?」
「ふふ。うん、僕だよ」
彼女は自分の部屋に僕がいることがまだ信じられないみたいだ。
頬を真っ赤にして目をうるませて、暗がりのなか一生懸命に目を凝らして僕を見つめている。
「廊下、冷たい?ベッド行く?」
玄関に入るなり押し倒してしまったから、さっきから冷たい廊下に寝そべる笹野さんが冷えてしまわないかと心配だった。
僕は眉を八の字にして彼女を覗き込み、ちゅっと頬にキスをする。
ちょっとぎこちなくなってしまったのは許してほしい。
童貞コミュ障な僕の精一杯の愛情表現なんだから。
「い、行かない……!」
笹野さんはそう言うと、僕に向かって両腕を伸ばしてきた。
「ぎゅってしたいの?ふふ、でもそれは後でもいい?動けなくなっちゃうからさ」
僕は彼女の両腕をやさしく床に押し付けて、僕の手で剥き出しにした彼女の裸の胸を見やった。
「続き、しよ?」