「
事務所で1人、伝票整理をしていた私にバイトの男の子がこそっと声を掛けてきた。
美味しそうなスペイン料理のお店を見つけたんですよ、とニコニコ笑う彼に二つ返事で誘いに乗った。
「良いわね、何時からにしましょうか」
彼は21歳、私より14歳も年下の大学三年生だ。
「今夜は仕事の付き合いで出かけるから食事は適当に食べてね、冷蔵庫にあるから」そう高校生の娘に電話して私は残りの仕事に取り掛かる。
娘だってもう子供ではないし、月に一度の外出くらいは大かんげらしい(夜遅くに夫が帰るまでリビングの大型テレビを独り占めできるから、という可愛い理由で)
彼、バイトの
最初は大きな息子か年の離れた弟ができたようで何かと世話を焼いていた。
それがいつしか友達のような関係になり、こうしてたまに飲みに行くようになっていた。
「ここ、素敵なお店ね。ワインもお料理もとても美味しい」
「でしょ!女誘うならココ!って学校の友達に教えてもらって」
彼のストレートな物言いに思わず吹き出して「じゃあ女の子誘ってきなさいよ」と笑ってしまった。
「私みたいなおばさんはこんな小洒落た所じゃなくて良いんだから、素敵なお店は好きな子にとっときなさいって」
「だから橋本さん誘ったんですよ」
「あらま、お上手ね」
褒めてもワインしか出ないわよ、と笑って、殆ど空になっていた彼のグラスにワインを注ぐ。
ふと顔を上げるとバイト中は見せないほど真剣な表情をした卓也君が居た。