俺はどこにでもいるただのサラリーマンで、どこにでもあるような夫婦円満な家庭を築いている。
だがただのサラリーマンじゃない。
なぜなら俺は誰にも負けないくらい妻を愛しているから。
妻のためならなんだってできる。
ずっと永遠に妻と夫婦であり続けることが、俺の救いだった。
話は変わり、今日は朝から会社を休んでとある場所に花束を持って来ている。
妻への愛情の深さを、今年は花束にした。
好きだと言っていたピンクのチューリップとカスミソウ。
俺は人生2度目の花屋に行ったんだぞ?
恥ずかしかったが妻との夢を見た今日は、その花束を欲しがっているのではと考えたんだ。
だから顔を少し赤くさせつつ選んだんだ。
はは、お前なら耳も赤いよと言いそうだな。
………
………
さぁ、目的地には着いた。
透明なナイロンから花束を出して俺は、
妻の墓前に置いたんだ。
「‥‥おはよう。今日夢に来てくれたんだな。ありがとう。お礼の華だ。香りがいいと‥喜んでくれよ」
俺は事前に汲み取っていた水を墓にかけながら話をしていた。
「あーあ。季節は変わるな。お前よく言ってたよな?季節の変わり目こそ何事も切り替えようって」
カラン、と空になったバケツを手から落とした。
カラカラと砂利の上に転がしてしまう。
悔やんでいるんだ。
「夢に来てくれて嬉しかったよ‥‥ごめんな。あの日俺も一緒に、いてれ、ば‥‥‥っ」
そうだ。あの日だ。
………
………
大雨の日、傘を忘れた俺を迎えに来てくれるとLINEがあった。
それを頼ろうと俺は少しだけ残業をしていた。
けどいつまでたっても妻から「着いた」というLINEがない。
いったいなぜだろうか‥‥‥
不思議に思って会社をでてあたりを見回した。
だがどこにもいない。
いつもならLINEか、もしくは会社のロビーで待っているのにな‥‥
俺はどこか楽観視していた。
もしかして帰ったのか、それとも‥‥‥。
最悪な予感すら頭をよぎった。
………
………
怖くてたまらなくて、何度も何度も電話をする。
だがしかし、かけ続けること21回目。
ついに、電源が入っていないというアナウンスが流れた。
普段こんなことは間違いなくない。
それは俺が一番知っているから。
‥‥病院に行ったとかか?
具合を悪くしたのか?
頭の中では最悪な予想はしないようにいろんな話が詰まってきた。
その瞬間だ、俺のスマホが鳴り響いたのは。
見れば妻ではなく、なんと警察から。
俺は震える手を止められないまま電話に出た。
それは妻が、俺の考えていた最悪の事体だった。