熱が、私の奥底から伝わってくる。
この熱を、リビドーというのだろうと、私は思う。
主人と抱き合っているとき、私はこんな熱を感じたことはない。
主人だけではない。
それまで交わってきたどんな男性からも(とはいっても、主人の前にこうして交わったことがあるのは二人だけだけれど)感じたことはなかった。
その熱が、私の体の中をかき乱していく。
膣をかき乱し、理性をかき乱し、私という人間をかき乱した。
こうしてつながっている瞬間だけは、きっと私と彼はこの世界で誰よりも愛し合った恋人になるのだと思っている。
だから今は、純粋にその恋に身を焦がしたいのだ。
「あ、ふぅん……」
思わず声が漏れる。
上から隆がごそごそと動く音が聞こえてくる。
気づかれてはいけない。
声を、抑えなくてはいけない。
そうは思うだけれど、どうしてもこの快感は、抑えられないのだ。
彼がゆっくりと、しかし次第にスピードを上げて、私のもう一つの口を突き上げる。
そのたびに、絶頂が私の体を突き抜ける。
気持ちいい。そう表現するのもおこがましいくらいの快感だった。
「もっと、もっと」
「わがままですね」
彼はまるで野獣のように笑った。
その表情の恐ろしさと美しさに、私はぞくりとした。
彼が腰を振る速度が増し、私の体を快感が間断なく駆け巡る。
もっと、もっとあなたが欲しい。
口に出しては言わなかったけれど、彼の肩をつかむ手で、それを必死に伝えた。
それにこたえるように、彼はもっと勢いをまして、腰を私に打ち付けた。
私の奥底がかき乱される音が、激しく響いていた。
そして、私と彼の肌と肌がぶつかり合う音も、大きく響いていた。
この音が隆に聞こえてしまえば、きっと言い訳はできないだろうな、なんてどこか他人ごとのように思いながら、その音に身をゆだねた。
「僕、もうそろそろ限界です」
「私も」
いつも、絶頂するタイミングは、大体同じだ。
たぶん、私の方が一呼吸だけ、早い。
そんな気がして、いつも悔しいな、と心の片隅の方で思う。
「ん、んんん……」
「あ、ああっ!」
彼の液体が、理性の内側で濁流となってあふれ出たのを感じた。
その瞬間だけは、いつも声を抑えるのが苦しい。
今日は、いつもより一段と激しくて、思わず声が漏れ出てしまった。
すると、隆の部屋から大きな音が聞こえてきた。
「お母さん、どうかしたの!?」
隆が階段から降りながらそう言う声が聞こえる。
私たちは無言でつながりを解いて、証拠になるようなものをすぐに片づけた。
私たちはいつもこうなる危険と隣り合わせだ。
私と彼が合うことができるのは、隆の勉強が終わった後だけ。
つまり、この家にはかならず隆がいるのだ。
そうじゃないと、私たちがあってもいい理由がない。
だから、いつ隆がこの部屋に来てもいいように、私たちは服を着たまま交わる。
「大丈夫?」
リビングへ通じる扉の前の影が、そう私に尋ねる。
「大丈夫よ、ごめんね、紅茶が少しこぼれてしまっただけだから」
「手伝おうか?」
「大丈夫、本当に少しだからすぐに済むわ」
「よかった、何かあったら言ってね」
そういうと、影は見えなくなった。
「危なかったですね」
彼はほっとしたような微笑みを浮かべている。
これまでも何度か、こういうことがあった。
今回のように、ドアのところまで来たのは初めてだったが、いつもカモフラージュのためにカップなどは用意してある。
もし隆が部屋に入ってきても、どうとでもごまかすことはできる。
「でも、このスリルが良い、とか思ってるんでしょう?」
「そうですね」
私が問うと、彼はにやりと笑ってそう言った。
彼との交わりは、確かに体の相性の良さからくるものではあると思う。
けれど、それだけではなくて、いつか誰かにばれてしまうかもしれないというスリルがあるからこそ、その快感が増しているのは、私も、彼も、分かっていた。
「今度からはもっとしっかり口をふさいでおかないといけませんね」
「それもいいわね」
「おぬしも悪よのぅ」
少し時代がかったセリフで、彼は言った。