最終章:求めているのはあなただった
行為後は、服を着てから二人は手をつないで床に座っている。
「なんで来たんだよ」
「…尊人さんから聞いた。お母さんを亡くされてから愛情をどうすればいいのかわからないって」
「兄さん、知ってたんだ」
「はい。それと、私のことも」
「あかねの??」
「はい。私、もともと両親が警察官だったんです。だからいつもおばあちゃんとおじいちゃんと暮らしていました。でもなんだかんだで両親は夜中帰ってきたりしてて。けどある日私は、勘違いをしていたことを言っちゃったんです。別にいなくてもいいーって」
しんみりと顔を両膝で覆った。
「その次の日です。たまたま帰ることができない時に限って、連続殺人犯に殺されました。もう、本当にいなくなっちゃったって。当時私はよくわかりませんでした。ただそのあとに棺桶に入った両親を見て実感したんです。もう、会話も、何もかも、失ってしまった。最後に話した内容がこんなことでだなんて…死にたくなりました。その時に私を訪ねてきた人がいたんです。それが尊人さん。父親同士が知り合いで、両親が死ぬ前に私を尊人さんに預けたんだそうで」
つなぐ手に少しだけキュッと力が入る。
それを感じて健人はさらに指を絡めた。
「あとは頼むってそれがあの二人の遺言だって。ほんとうに…もう」
「…立派な遺言だよ。そんな風に言ってしまった娘がいたとしても、親は親だから」
「はい…一生尊敬します。いえ、していきます」
「そうだな…」
「そして、私は思いました。あの日、ここで他の女性を抱いていたあなたを見て、激しくやきもちを妬きました」
予想外な言葉に健人は目を丸くする。
「だって兄さんと…」
「尊人さんとは、将来誰もいなかったら結婚しようって言ってただけです。今私が好きなのは、健人さんです」
「……」
「健人さん?」
「あ、お、俺、女性に名前で呼ばれるのが嫌いだった。死んだ母さんがつけた名前はかんたんに呼ばれたくなかった。呼ばれただけで嫌悪感があったんだけど、なんか…あかねにならうれしいかも」
「それ、すごい嬉しい言葉です」
「あかね。好きだよ」
健人は身を乗り出しコツンとおでこをあわせた。
にこっと笑っている二人。
「私も健人さんが好きです」
「同じだ」
「はい」
二人はクスっと笑いあい、最後は結局仕事を終わらせるまで小一時間ほど残業を頑張って終わらせた。
その日の帰りは足が軽く感じて、どちらかとなく指を絡めて握りしめあい、幸せを見つけた。
これは本当に双方の家族が心から祝福してくれるだろう。
それが、親の愛情。