ひとりエッチ

夢の中の貴方

私が工藤先輩を知ったのは、中学二年生の春、私の四つ上の兄が出るバスケットボールの試合を見に行った、その時でした。

初々しい風の吹く麗らかに晴れ渡った四月初めの日曜日の朝、兄が数人の仲のいいチームメイトと弁当を持って自転車で試合会場であるK高校に行くのを見送った後、暫くのんびりして10時頃、部屋で一人将棋をしている父を置いて私と母は二人で、母の運転する車でK高校へ向った。

試合開始予定時間が10時30分で、私達は丁度5分前にK学校に着いた。

学校へ入ると様々の学校の選手らが大きな声を出しながらそれぞれ黒や白や赤や緑などの特徴的なジャージやユニフォームを着てストレッチやウォーミングアップをしていて、私と母は騒がしい廊下を壁に貼られている目印を頼りに時折ランニングをしている選手らを気にしながらやっと体育館に着いた。

中に入ると、床を叩きつけるドリブルやシューズの摩擦して鳴るキュッキュッと囀りのような音、数分後にはじまる試合に向けてシュート練習する両チームの燃えたぎる声出しと館内に漂う熱気が二人をぐいっと襲い掛かかった。

まだ試合ははじまっておらず、私達は兄のB高校側の観客席へ向かって、既に座って見守っている保護者達と間隔を置くようになるべく端の方に座った。

B高校が勝った。

勝ったことによってB高校は準々決勝に進み、その試合が14時30分からはじまるので、私達は昼ご飯を食べる為一旦家に帰った。

体育館を出た所で母は思い付いたように「スポーツドリンク足りるかしら」と言って校内の自販機でアクエリアスを1本買い、それを私が兄に届けに行く事になり、母は車に戻って行った。

私は二階に登ると体育館のギャラリーにいる兄の所まで床に座って何か談笑しているいくつかのチームを謝り謝りして跨って行った。

その途中に一人のガタイのいい、恐らくキャプテンであろう男の人が白い上半身を露わにしてみんなと何か話していた。

彫りの深く鋭い切れ長の目をして、厚く盛り上がった暖かそうな胸筋と小さく整った桃色の乳首、細緻に彫り込まれた腹筋、ふっくらと弾力のある三角筋、それから下に清く流れて鷹揚と波打つ腕の筋肉、そしてそれらを薄く包み込む白く清冽な皮膚が私の心を惑わした。

私は周りの人にバレないように顔を前に向けて眼球だけをその方に向けながら、しかし歩みを止めずに歩きながら見ていた。

そして兄にアクエリアスを渡すと兄と話していたチームメイトにジロジロ見られるのが怖くて逃げるように戻って行った。

私が戻って行った時には既に玉のような上半身も陳腐なTシャツで覆われてしまっていた。

彼等の後ろの壁に白い紙が貼られていて、そこには “A高専” と記されてあった。

家に帰ると私は手も洗わずに真っ直ぐ2階の自分の部屋へ入っていった。

そして服を着替えてベッドの中に潜った。

その時の私の心には先程見た或る男の端正な顔と美しい筋肉の輪郭が眩くぼやけてしまった景色がシャツに染みたコーヒーのように執拗に描かれ、どうかしてそれを打消そうと懸命になってもゆらゆらと浮かび上がって来ました。

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