「なんか……物足りないんだよねえ……」
金曜日の夜、薄暗い雰囲気のあるその店で、二人は久しぶりの女子会を楽しんでいた。
会社の同期として入社して、それ以来たまにこうして夜出かける二人だが、今日の店は最近出来た新しい店だった。
薄暗く、しかしムードの漂うその店は、楽器の演奏スペースがありたまにジャズのコンサートも開かれているらしい。
料理はおいしく、高すぎない料金設定でついついワインを煽るスピードがはやくなる。
アルコールがまわってふんわりとしてきた頃にさゆりから彼氏の話を振られて、つい言うつもりのなかったことまでポロリと口にしてしまったのだった。
「千香子の彼氏って……あれだよね、私も参加した合コンで知り合った人だよね?」
「そうそう、懐かしいねえ……ふふ……」
そうさゆりに言われて、そういえばそうだったと思い出す。
半年ほど前の合コンで出会った相手、ヒロムが千香子の今の彼氏だ。
特にイケメンと言うわけでもないが、にこりと微笑むとふわりと柔らかくなる彼の雰囲気に惹かれ、トントン拍子で交際が始まった。
優しくて、笑顔の雰囲気そのままに包容力もあり、真面目に働いて怒りっぽくもない――正直、結婚するには最高の相手だと思う。
わかっているが、どうしても千香子には満足出来ないことがあったのだ。
「優しいんだけどね、本当にすっごく優しくて、いい彼氏なんだけど……」
さすがに直接言葉にするのは酔っ払った千香子でもはばかられ、遠回しな物言いになる。
それだけでも、さすがは長年の付き合いとでも言えば良いのか――さゆりは千香子の言いたいことを見抜いていた。
「夜が満足出来ないんでしょ?」
「うっ……まあ、うん……そうなんだよねえ……」
さゆりの指摘通り、千香子は彼との性生活に、正直言って満足出来ていなかったのだ。
悪くはない。
優しいし、絶対に千香子に苦しい思いをさせない、愛のあるセックス。
これで満足出来ないなんて言ったら、どれだけ望んでいるんだと怒られてもおかしくはない。
しかし、千香子自身どちらかと言うと……刺激的なセックスの方が好みなのだ。
残念なことに、生まれ持ってしまった性癖はそう容易く変えることは出来ないらしい。
どれだけ満足している、と自分に無理矢理言い聞かせてみても、どうしても心の端に少しだけ、彼との夜の時間に不満を感じてしまうのだった。
「優しいし、愛もあるし……すっごく、その、素敵な人なんだよ?」
「わかるよ、いい人だよね」
「そうでしょ?そうなんだよ!……だけど……」
「千香子の今までの彼氏って……ちょっとタイプ違うもんねえ……」
千香子の昔の彼氏を知っているさゆりは、うんうん、と
優しいタイプ、というよりは、女慣れしているタイプ、とでも言うのか――今までの恋人はどちらかと言うと派手で、自分勝手なタイプが多かったのだ。
そのせいでよく泣かされてきたのだが……男に振り回される刺激に心満たされている自分がいるのも確かだった。
「はあ……もう我慢するしかないのかなあ、やっぱり……」
これ以上を望むなんて贅沢でしかないのか……
ため息をつく千香子に、さゆりはニッと笑った。
ひそひそ話をするように口に手を当て、さゆりの上半身が千香子の方へと乗り出してくる。
「いいところ、知ってるんだ……もしかしたら気に入るかもよ、ヒロムくんも……」
声を潜めながらも続くさゆりの話に、千香子も身を乗り出した。
その内容は普段だったら聞き流してしまうかもしれないが――アルコールが回り、その上それなりに悩みが真剣だったものだから、千香子はそのままヒロムにLINEを送ったのだった。
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