「おめでとーー!!」
出勤早々、突然の祝福が…
なんで筒抜けなんだ…と思ったら横の男性はピースサインをして喜んでいる。
「なんで!!??」
「佐伯さんーやっと彼氏ゲットですね!」
「は!!??ちょっと酒井ちゃん何言って…」
「何って念願の彼氏、あーんど片想い卒業ですよ!!」
同僚の酒井ちゃんにそう言葉にされると恥ずかしくって顔を赤く染めてしまう。
その反応を見た酒井ちゃんはにやにやとしながら、私の隣に立つ男性の横のお腹をツンツンとさしている。
「ちょっとー。罪な男だねー」
「…え、片想い!?」
酒井ちゃんの言葉に、私の隣に立つ男性は目を丸くした。
「佐伯さん言ってなかったんですか!?」
「あーもー恥ずかしい…」
「ずっと片想いしてたんですよ!」
「俺ってば罪だ」
「アンタもいちいち反応しないで!」
なぜこんなことに…
それは…
少しだけ時間を戻してお話していきたいと思います。
では、どうぞ…
私の一日は、満員の地下鉄に入り込むことから始まります。
あまりにも人が多く、初めの頃私は時間帯をかなり早めて回避していました。
ピピ、ピピ、と鳴り響く携帯電話のアラーム。
私はいつも通りこのアラームで起きるのです。
けれどどうでしょうか。
見事に起きれませんでした。
結果、50分遅れで自然に起床。
「…いまからだと間に合うけど満員なんだよなー…」
苦渋の選択を求められた。
欠勤も考えたが、今日は後輩の送迎会があるから体調不良では休めない。
しかたなく、満員電車で妥協することに決めた。
いつも通りシャワーを浴びて、着替えて化粧をしていた。
その日はたまたま送迎会主役の後輩がくれた香水を少しだけつけてみた。
可愛がった後輩。
まさか結婚するためにうちの会社辞めて、稼ぎのいい営業職に就くことになるとは。
本当の弟のように大好きだった。
…もちろん、男性としても好きだった。
だからこそ最後は送迎会として、同じ同僚だったとして出席はしたいのだ。
会社は基本的には自由な服装。
今日は少しだけおしゃれをしよう。
服は後輩が「かわいい」と言ってくれた、あの服で。
叶わない恋愛を少しでも良い想い出にしようと必死な私だ。
振り向いてほしいわけではない。
けど、何もなかった関係では終わりたくない気持ちはあった。
だからこの服を着て、香水をつけて、最後に気持ちだけ伝えて終わろう。
そう、心に決めた。
「よし」
ほんのり赤みさすグロスを唇に乗せたら、化粧は終わりだ。
バッグを持って、私は自宅から出た。