あたしは工藤愛菜(くどうあいな)、25歳です。
今は派遣社員としてとある会社に勤めております。
そこで見つけたのです。
あたしだけの王子様を―…
現在の時刻は午前7時32分。
この時間に彼は来るのだ。
いつものエレベーターに。
「あれ?」
王子様を待っていると、違う同僚に見つかった。
彼は桐生さん。
周囲からは“王子様”と呼ばれている。
まぁあたしからしたら本物の王子様は彼ではない。
「どうしたの工藤ちゃん」
「いえ、なんでもありません。おはようございます」
「…はっはーん。さては…守屋だな?」
「言わないでください!!!」
そう、待っていた相手は直属上司にあたる守屋さん。
え?
なんで王子様なのかって?
実は、前に会社に早く来すぎてしまった時に出くわしたことがきっかけ。
会社が開いてなかったから冬の雪降る寒さの中であたし会社が開くのを待っていた。
その時一番最初に来てくれたのが守屋さん。
守屋さんが悪いわけでもないのに、素直に謝られた。
そこまでは他と変わらない。
違ったのは、守屋さんがそのあとに暖かいコーヒーを買って持ってきてくれたの。
「寒い中悪かったな」
って言って。
もうキュンキュンだよ!!
さらにポンポンって頭を撫でて叩いてくれた!
もうあたしはお腹いっぱいなほど守屋さん一色になった。
それから毎日が守屋さん。
「残念。守屋は結婚してるよ」
「え!?」
「しかもあいつ女にだらしないからやめた方がいいよー?」
「そんなことない!!」
「いやいや、見た目で判断しないほうがいいって」
「ちが―…」
「おい桐生。何言ってんだ」
!
まさかの守屋さんだ!
「おおお、おはようございます!!」
「あぁ、おはよう」
生守屋さんだ!
「どこから聞いてた?」
「“しかもあいつ”から」
あ、じゃれてる…
なんか桐生さんは気兼ねなく話が出来てていいなぁ。
しかもたしか同期だったはず。
あーあ、あたしも同じだったらなー。
「って聞いてる工藤ちゃん?」
「え、あ、はい!?」
「守屋行っちゃったよ」
「そんなぁー」
「可愛いね」
桐生さんは守屋さんと同じく頭をポンポンしてくれた。