ラブラブ

古民家旅館の露天風呂で…

「混浴温泉には女性の裸を見るためだけにお湯に浸かりに来る男が少なからず居ます。そういう方々を、水中で獲物を待ち欲望のままに群がってくるその姿から “ワニ” と呼びます。しかし、この温泉は宿泊客のみ入浴可能な為、ワニが出没しない貴重な混浴温泉なのです」

「家族湯でいいじゃん」

「広さが違うよ。それに例え他の人と鉢合わせてもカップルとか夫婦だから…さ」

「…私知らない人と乱交する趣味は無いんだけど」

「俺も無いよ。でも見られてみたいじゃん」

あっけらかんと言い放った彼氏、圭佑けいすけに呆れつつも「誕生日プレゼントだと思って俺からの温泉旅行、受け取ってよ。勿論普通のプレゼントも用意するし…奮発するからさ」と必死にお願いされてしまい、樹里亜じゅりあは渋々うなずいた。

宿泊客だけの利用なら治安も悪くないし安心してよ、と肩を叩かれ、少しだけ愛想が尽きたのはここだけの話。

何度も上がり下がりを繰り返して山の中を走り続けること二時間、やっと着いた温泉宿は築100年は優に過ぎていようかという古さであったが飴色に輝く木の扉が美しく、また手入れもきちんとなされた趣きのある建物だった。

明治大正頃に作られたらしいと隣で薀蓄うんちくを傾ける圭佑に適当な相槌あいずちを返しながら入り口に向かう。

きちんとまとめられた黒髪に和服の似合う年配の仲居さんが丁寧に出迎えてくれた。

部屋は広々とした洋室で、家具は年季の入ったものだったがマットや寝具は真新しい。

設備面も外見からは想像つかないほど整っている。

「すごーい!綺麗!」

「そのステンドグラスは明治の頃に作られたものなんですよ」

彼女が窓の上部に嵌めこまれた色鮮やかなガラスに見とれている間に圭佑は仲居に話かける。

「夕食は八時頃にお願いします。あと、お風呂に行きたいのですが…」

「はい、かしこまりました。室内のお風呂は24時間お使いいただけます」

今日の宿泊は他に二組しか居ないからゆっくり入れること、それから露天風呂は日に二回清掃する為朝と晩に一時間ずつ使えない時間があると話して仲居はその場を後にした。

「良いお部屋だね、雰囲気があって…」

「風呂行こう!」

「…早くない?」

「明るい時間の風呂ってのもたまには良いじゃん」

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