午後11時、電車に乗った。
人混みを避けるため、空いている各停に乗車した。
急行なら20分で自宅最寄り駅に着くけれど、各停はその倍の時間がかかる。
心地良く揺られながら、先ほどまで参加していた合コンのことを思い出す。
女3人の女子会を予定していたのに、友達が呼んだ男性3人が加わり事実上は合コンだった。
セッティングをした男女は最初からその気だったようで距離はすぐに縮まり、今はベッドの上にいることだろう。
私を含む男女4人はただアルコールを飲むばかりのつまらない時間を過ごした。
彼氏と別れて7ヶ月。
お互い真剣になれなくて別れた。
そろそろ恋をしてみたい、本気の恋を。
しかし気になる人なんて簡単には見つけられない。
いくら私を思ってくれる相手でも顔が好みでなければ私は本気になれない。
今こうして電車に乗り降りする男性を見渡してもカッコいいと思える人は1人もいない。
駅で停車するたびにドアのほうを見ても全く面白くなかった。
電車に乗ってから6駅目、ほどほどにいた乗客もこのあたりになると片手で数えられるほどになる。
ふと顔を上げて車内を見渡す。
中年サラリーマンと眠る女性が両端にいる。
そして斜め向かいにもう1人--知った顔があった。
まばたきするのを忘れてしまうほど、美しく整った顔がそこに。
その顔を持つ人は、私だけを瞳に映していた。
忘れていた感情が鮮やかに蘇る。
彼の声、背中、足音、知っている限りの彼のことが全て。
3年前までバイトをしていた店の直属の上司、
目鼻立ちの良い美人な顔をしていながら男らしさに溢れている。
それでいて自分がどれだけカッコいいのか、彼はきっと分かっていない。
「どうも」
低くて落ち着いた声は以前と同じだった。
「こんばんは。お久しぶりです」
「こんばんは。
彼に名前を呼ばれただけなのに
もっと彼と話したいのに緊張して何を話せばいいのか分からない。
「家に帰るの?」
「はい。帰ります」
「そう。俺も」
私服姿の彼。
こんな時間まで何をしていたのだろうか。
今日だけじゃなく、今までどこで何をしていたのだろう。
「今も、あのお店で働いているんですか」
「ううん。今は別の仕事してる」
あの店には16歳から19歳までの3年間バイトをした。
バイトを辞めた後は特に用がなかったので、足を運ぶことはなかった。
彼はバイト先の憧れの人、だから深入りしてはいけないと心に決めていた。
「伊原さんは何してるの、今」
「雑貨屋の店員です」
当時、彼と話すことといえば仕事に関する最低限の内容のみ。
だから年齢も知らないし、既婚者かどうかも分からない。
「そうなんだ」
ルックスが好きというのもあるけれど、なにより落ち着いた雰囲気が好きだった。
無口な感じで何を考えているのか分からないところに惹かれた。
「あの、今日は何をされていたんですか」
「知り合いと飲んでた。伊原さんは?」
「私も友達と飲んでました」
「楽しかった?」
「…微妙でした」
人と話すことを苦手としていないのに、彼の前では言葉を紡ぎだすのが下手になる。
「そっち行っていい?」
彼の視線が私の隣をさしたので、こっくりとうなずいた。
隣に座った彼の横顔は本当に綺麗だった。
長いまつ毛、鼻筋の通った高い鼻、鼻から顎にかけてのライン、全てが完璧。
彼に酔いしれるのもほどほどに、それから私は今日あった出来事を話した。
何度読んでもエッチな気分になれるお気に入りストーリーです。笹尾さんファン。今度ちゃんと言ってほしい!続きがあると嬉しいです。