恋のはじまり

私にとってクリスマスは特別な日…

「……」

結果的に言えば、私の悪運は継続した。

チャレンジメニューがどうしようもなくチャレンジメニューで、当初二人で完食しようとしていた由衣と春香を説教していたところまでは楽しかった。

芽衣子と協力し合ってあと少しというところで、私は全ての動作を止めずにはいられなかった。

「あれ、由衣?てか春香達もいるじゃん!」

隣のテーブルについた男達のグループが、中学の頃の同級生で……その中にあいつの姿を見つけたから。

「うわ。男四人でクリスマスとか寂しくない?」

「はぁ?お前らに言われたくねぇんだけど!」

話しかけてきたのは当時からクラスのまとめ役だった津田君で、由衣と春香は純粋に久しぶりの再会を喜んでいた。

「すごい偶然だね!もしかしてチャレンジメニュー目当て?」

「そーそー。男四人もいれば誰かはクリアできんだろ」

「やめた方がいいと思うよ。私ら四人がかりで完食できてない」

(おいおい、会話弾んじゃったよ……)

私は手元の皿を見つめたまま、どうにかしてこの状況を切り抜けられないかと考える。

いきなり席を立ってもいいけど、とりわけた皿の分くらいは食べていかないと感じも行儀も悪いだろう。

ふと、向かいの席の芽衣子がテーブルの下で私のすねを足でつついた。

「……布由乃ふゆの、伊藤君と和解できてないよね?大丈夫?」

こそっと声を潜ませ、そちらに目配せした。

芽衣子の気使いに今日一の感動で泣きそうになる。

「和解ってか、一方的に嫌われているの。まぁこじれたままであることには変わらないんだけど」

お茶を濁すようにワインを口に含む。

うーん。男子四人隣の席についちゃったな。

そっとそちらの様子を伺うと、件の人物――伊藤翼とばっちり目が合ってしまう。

(わー……相変わらず瞳孔ガン開き……)

私は親の仇かよ、と言いたくなるようなとげのある視線になんかもう、どうでもよくなってきた。

幸い、由衣と春香が会話を続けているおかげで私の方には話が振られない。

というか、ひたすら肉を食べているので話しかけづらいだろう。

取り皿分を間食したところでグラスのワインも飲み切る。

全体的にはまだ残っているけど、まぁ助っ人にしては検討した。

芽衣子も察してくれているし、帰るなら早いに越したことはない。

問題は、どう席を立つか――。

つい、「宴会席の立ち方」で検索をかけてしまいそうになったとき、着信が入る。

パリピパーティーの同僚からだ。

「ごめん、ちょっと席外す。電話きちゃった」

にぎやかな店内では会話できそうにないので私は断りを入れて外に出た。

「あっ!榊さん?今日は早退しちゃってごめんなさーい」

素面だったらぶち切れしそうなほど能天気な声にアルコールって偉大だな、と感謝した。

「……いえ。体調はどうですか?」

「え?あ、あぁー……だいぶ良くなりました!ありがとうございます。あの、私、あの後自分の家じゃなくて、彼の家で介抱して貰っていましてぇ」

「はぁ……それは、よかったですね?」

「そ、そうなんです!それで、ほら、サプライズ的な感じで彼の友達が家に集まっちゃって……」

しどろもどろのそれに「あぁ」と察する。

こいつ、完全にインスタに挙げた写真を私にばらされないように言い訳しているな、と。

「そうですか。とりあえずお大事にしてください。仕事のことは気にしないで大丈夫ですよ」

意地悪く嫌味の一つでも言ってやってもよかったけれど、この女のタイミングはあまりに最高だった。

(よし……このまま用事ができたって言って帰ろう)

グッジョブ、パリピ女。仕事押し付けたことは許さないけどな!

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