まさか嘘だろう、からかわれているんじゃないか、という気持ちが半分。
やれば出来る、勇気を出して誘ってよかった、という気持ちが半分。
男同士なら絶対に選ぶことはない小洒落た店で奇妙な感覚に陥りながらワイングラスを傾ける。
あの後すぐに予約の電話を入れたらぎりぎりの所で席が取れた。
女性と二人でお酒を飲んでいるというシチュエーションが自分に不似合い過ぎて落ち着かない。
「お酒も料理も美味しいですね、内装も素敵ですし…良いお店ですね」
岡島さんは昼間より少しだけお化粧が濃くなってた。
お酒が入っているとは言え会社でみるよりニコニコしていて
「岡島さん、会社にいるときとは印象変わりますね」
「そうですか?お酒が入ってるからでしょうか」
地中海料理が何なのかよくわからないがごちゃごちゃした複雑な味の小皿料理をつまみながらワインを空けていると少しリラックスした気分になってきた。
酒で気が大きくなると取り返しのつかないようなことを何の抵抗もなく平気でしでかしてしまうことが度々あると思うけれどまさにこの時の俺はそんな状態である。
「岡島さん、俺と付き合ってくれませんか」
フォークを片手に驚いた顔で動きのとまっている彼女に畳み掛けるように言葉を続ける。
沈黙が怖かったのかもしれないし彼女からの答えを聞きたくなかっただけかもしれないがとにかく喋った。
伝えたかった。
ずっとこうして誘いたいと思っていたこと、休憩中に話す他愛ないやりとりが楽しかったこと、ずっと好きだったこと…
「転勤する前に、伝えたくて」
きっとこの時の俺は酷く思い詰めた顔をしていたと思う。
テーブルの上で硬く握り込んだ手の中はびしょびしょに汗をかいていて自分でも気持ち悪いと感じるほどだった。
そんな俺の手に彼女の少しだけ温度の低い小さな手がそっと重なってきた。