恋のはじまり

同窓会で元恋人と再会したら…

再会した瞬間、すべての思い出がよみがえってきた。

「ハル、だよな?」

「アキ?」

振り向いた彼女は、やっぱりハル、大和田 遥おおわだはるかだった。

彼女と会うのは、実に十年ぶりだった。

彼女は喧噪けんそうから少し離れたところで、一人ワイングラスを傾けていた。

僕が隣に近づくと、彼女は少しスペースを空けてくれた。

「久しぶり」

話始めると、少し喉に言葉が絡まるような感覚を覚えた。

僕は手に持っていたワインを一口だけ含んで、少しだけ口の中で泳がせてから飲み込んだ。

「うん、久しぶりだね」

「成人式の時にも会えなかったからな」

「そうだね」

彼女が微笑んだ時の、困ったように下がる眉は、十年前とまったく変わっていなかった。

………

………

「あれ、指輪」

その時僕は彼女の左手に気付いた。

彼女の左手には、指輪がないのだ。

彼女は七年前に結婚していたことを、僕は風のうわさで聞いていた。

「アキ、聞いてなかったんだ」

「え?」

「私、去年離婚したんだ」

「そう、なんだ」

僕はまた一口ワインを飲んだ。

知らなかった。

彼女が結婚した話を聞いたときから、僕は意図して彼女から離れていたから、それも仕方ないことなのかもしれなかったけれど、しかしそれでも、彼女が離婚していたという事実には衝撃を受けざるを得なかった。

「だから今は、ひとりで自由にやってるよ」

「知らなかったよ」

僕は何事もなかったように、彼女の言葉を受け止めた。

彼女はひとり。その事実は、僕の心の中で行ったり来たりした。

「アキはどう?」

彼女はワイングラスを見つめていた。

僕のことは、見ていない。

「変わりはないよ」

「そうなんだ」

僕は少し笑いながら答えたけれど、内心はとてもドキドキしていた。

「ねえ、ハル」

「ん?」

「今度、二人でご飯に行かないか?」

「二人で?」

「うん、話したいこともあるし」

僕が言うと、彼女はまたワイングラスを見つめて、少し沈黙した。

周りはまだ騒がしかったけれど、その喧騒けんそうもどこかへ遠ざかっていって、僕の耳に聞こえるのは自分の鼓動の音だけだった。

ここで二人話を深めることはできるだろう。

でも、みんなの中でできる話と、二人でならできる話の間には、埋められない溝がある。

だから僕は、彼女を食事に誘った。

二人で話が、したかったから。

彼女の答えはこうだった。

「わかった、行こう」

彼女はまた、眉を下げながら微笑んだ。

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