恋のはじまり

同窓会で元恋人と再会したら…

そこは隠れ家的なラブホテルで、広くラブホテルとしては知られていない場所だった。

近くにラブホテル街があるわけでもなく、なぜかぽつんと一軒だけ、ここに建っているのだった。

しかも、外見からはそこがラブホテルとしては一見して分かりづらい。

だから、高校生の頃、体を重ねる場所に苦労していた僕たちは(僕たちはお互い兄弟で部屋を使っていたせいで、部屋に遊びに行ってもそう言うことがしづらかったのだ)、このホテルに何度か足を運んでいた。

「これは確かに、刺激的だね」

「でしょ?」

「十年前じゃできなかったことも、できちゃうかもね」

「え?」

「何でもないよ」

「……、そう」

彼女の声は、小声でしっかりとは聞こえなかったけれど、もし聞こえてきた内容であっていれば、と思うとどうにも欲望が止められなさそうだったから、深くは考えないことにした。

受付の方法は十年前と変わっていなかった。

機械などは丁寧に管理されているのか、十年前に来た時より汚れている、というような印象もあまり受けなかった。

「僕、これまでずっと後悔していたんだ」

僕がそう言ったときにエレベーターの扉が開いて、若い男女が二人、僕らとすれ違っていった。

彼らはとても幸せそうで、十年前の僕らを見ているような気持ちになった。

「後悔?」

「うん、あの時、僕がもっと強く引き留めていれば、何か変わったんじゃないか、って。十年間ずっと、僕は思ってたんだ」

エレベーターが閉まると、彼女は僕の手をぎゅっと握った。

「私もそうだよ」

じゃあなんで結婚したのか、と聞くのはやめにした。

それを聞いても僕はきっと納得できないし、彼女もきっとただ苦しむだけだ。

エレベーターは音を立てて開いた。

僕たちは手をつないだまま、部屋までの道のりを歩いた。

その部屋は、僕たちがいつも使っていた部屋だった。

「この部屋、覚えてる」

「そういうだろうと思って、ここにしたんだ」

「さすがアキだね」

彼女はなぜか、いつもの困ったような微笑みではなく、とてもうれしそうな笑顔で言った。

「ハル、部屋に入る前に一つだけ確認したいんだけどさ」

「何?」

「僕たち、付き合ってるって認識であってる?」

ドアに手をかけている彼女は振り返って僕に言った。

「私が、どうでもいい元カレとラブホテルに来るような人間に見える?」

「見えない」

「そういうこと」

彼女らしい回答だな、と僕は思った。

僕はその回答にうれしくなって、彼女がまだ握ったままだった手を強く握り返した。

「じゃあ入ろっか」

「うん」

僕はドアノブを握る彼女の手に合わせる形で自分の手を乗せて、一緒にドアを開いた。

中の様子は十年前とほとんど何も変わっていなかった。

なんだか十年前にタイムスリップでもしたような不思議な気分にさせられた。

「懐かしいね」

「うん」

彼女は感慨深げに言った。

同じ気持ちを共有しているような気がして、僕は幸せだった。

「先にシャワーかかっちゃおうか」

「うん。一緒に入る?」

「いや、せっかくだし今日は別々に入ろう」

「わかった」

なんとなく、今日は彼女の体をベッドの上で見たい、と思った。

シャワールームとベッドだとやはり照明が違う。

シャワールームで十年ぶりの彼女の体は、十分に堪能できないような気がしたのだ。

聞こえてくるシャワーの音だけで、僕は自分の中心が欲望にたぎっていくのを感じた。

こんなに熱く興奮するのは、本当に十年ぶりのことだった。

「お待たせ」

彼女はバスローブをまとって出てきた。

少しはだけた胸元からたわわなふくらみがこぼれ落ちそうになっていた。

彼女はそういえば胸は大きい方だったということを今更ながら思い出した。

「じゃあ、僕も入ってくるよ」

これ以上彼女を見ていたら、何もかもを捨て去って彼女を襲ってしまいそうだった。

僕は彼女から目をそらして、シャワーを浴びに言った。

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