会社のリモート飲み会で…

『それでは皆さん、お疲れ様でした！カンパーイ！』

PCの向こう側へ音頭を合わせて、皆各々手にしたお酒を「カンパーイ！」と掲げる。

しばし無言が続いたのは、参加者全員が溺れているのかと錯覚するほど長く喉を鳴らしていたからだ。

数秒後。

「ぷはぁー！」と、間抜けなようで魂のこもった歓喜で溢れる。

盛り上がる一方で、その音は全てスピーカーから聞こえるという奇妙さに私は「これが噂の」と呟いた。

「私、リモート飲み会って初めてです」

私、菅野茜（かんのあかね）はチューハイの入ったグラスに口を付けた後、妙に感動してしまった。

「まぁ少人数とはいえ集まっちゃっているあたり、世間的にはグレーなリモート打ち上げだよね」

私の正面に座る主任の早瀬（はやせ）さんは苦笑いしていた。

今年新卒四年目の私より一回り年上の主任。

年齢よりも落ち着いた様子でとても頼りになる上司だ。

「それを言い出したらキリないですって！そんなん言うなら職場環境は笑えないくらい密じゃないですか！」

「そうそう！15人をうまく分散させているだけ偉いですよ、私達」

同じテーブルにつく同期の泉谷（いずみや）君と春香（はるか）ちゃんは力説し、料理を取り分けてくれた。

諸々の社会情勢に倣って、飲み会の類（たぐい）をずっと我慢してきた我が社。

当初は「まぁ仕方がないよね」と、あっさり受け入れていた、のだけれど……。

「そもそも飲み会が企画できる状態にまでプロジェクトを遂行した俺達は偉い！」

「確かにこの三か月はすごかったね……。今までで一番忙しかったなぁ……」

全員、思わず遠い目になってしまう。

三ヶ月に渡る大きなプロジェクト。

それはそれは、社員総出となって全力で取り組んだと言っても過言ではなかった。

連日の残業。

本部からの圧。

突然の視察。

推敲（すいこう）を重ねてはダメだしを食らって……連日の激務にみんなおかしくなり始めたとき、やっと一息つける段階に至った。

そして、

「俺は！俺を！この上なく！労いたいです主任！」

「私も！無性に仕事の愚痴を肴にみんなと飲みたい！分かち合ってくれる身内だけの飲み会がしたい！」

鬱憤（うっぷん）は爆発した。

いつもなら「まぁまぁ落ち着いて」と収める早瀬主任も

「みんなの気持ちはよく分かった。飲もう。リモートでもなんでもいい！互いを労わないと次の仕事なんてやってられるか！」

……誰よりも一番声が大きかった。

その瞬間「あぁ、主任が一番大変だったもんな……」と同情したのは私だけではなかったと思う。

そういうわけでリモートでのお疲れ様会は

「①比較的家が近い者同士」

「②集まったとしても五人以下」

「③感染対策は各々しっかりする」

と、言うルールありきで決行となった。