この夢のような時間は、もう二度と来ない…。
きっとヨウイチさんは、私みたいなつまらない女なんか相手にするわけがない…。
こうしている今の時間も、内心早く帰りたい!と思っているだろう。
そう考えると、申し訳なくもなった。
普段の私ならそこで潔く身を引いただろう。
いや、プライドを保つためにそんな言い方をしただけだ。
“普段の私なら屁理屈をこねまわして結局は何の行動も起こせず、また自室のパソコンの前に戻っていただろう”といった方が正しい。
ゆっくり話をして、食事をして、店を出たのは夜もすっかり遅くなった頃だった。
「そろそろ帰ろうか、駅まで送る」
ヨウイチさんのその言葉に、私は少し表情を曇らせた。
たとえ笑われても断られても、もう二度とこの時間はない!
ヨウイチさんには気持ちを伝えたい、好き!もっと一緒に居たい!
だけど、
「帰りたくない…」
と小さく呟くのが精一杯だった。
「…ゆっくり、休憩出来るとこ行こうか」
一緒に居られるならどこでも良い、という気持ちで無言のまま頷く。
ヨウイチさんの言葉の意味は分からなかった。
ただただ、断られなかった安堵感で頭が真っ白だった。
タクシーで向かった先はホテルだった。
後になってやっと、あれがラブホテルだったのだと知った。
促されるまま手近なソファに腰掛けると、ヨウイチさんも私の真横にまるで寄り添うように座る。
「私、ずっと人が苦手だったんです」
「うん」
「だけど、今日はすごく楽しかった」
「俺も」
「こんなの初めてで、嬉しいけど、終わるのが怖くて…」
眼の奥が痛いほど熱くなってジワッと涙が溢れ出る。
ヨウイチさんは私の肩に手を回して優しく抱き寄せてくれた。
もう自分ではどうにも出来ない勢いで次から次へと涙が溢れでた。
「うっ…ヨウイチさんが、好きなんです」
彼は何も言わずにキスをした。
私は勇気を出して言ったのに、ずるい、誤魔化された、と心のどこかで思ったけど、
きっとそうじゃなくって、人間不信な私を知っているからこそ、言葉じゃなく行動で返したんだと思う。
柔らかい唇が私の頬に、そっと触れる優しいキス。
それから唇の左右の端にチュ、チュと軽くキスしたかと思うと、次の瞬間二人の唇が重なった。
「ん…っ」
徐々に深く押し当てられるヨウイチさんの唇を感じながら、こういう時は息を止めるのがマナーなのかな?と、必死で息を止めていた。
「ミキちゃん、かわいい」
彼は最初に会った時と変わらない、優しい顔で笑う。
「ゆっくり息をしていいんだよ」
そう言って再び唇を重ね、私の唇を舌で突く。
それを受け入れるように少しだけ口を開く。
にゅる、と私の口内をヨウイチさんが侵食する。お酒の匂いと初めての感覚に頭がクラクラする。
無性に体が火照り、キスしながら、ハァハァと浅く荒い呼吸をした。
ヨウイチさんは私の髪を少し撫で、頬から耳、そして首へ流れていく。
「あっ…や、あぁ…」
初めての感覚と動揺で、言葉にならない声が止めるすべもなくこぼれてしまう。