恋のはじまり

打ち上げ花火と真夏の淫夢

大きな背中に揺られながら行く思い出の恋路

約束をした日は、毎年地元の花火大会が行われる8月15日。

学生時代にタクちゃんと行った花火大会の懐かしい記憶が思い出される。

いつもタクちゃんが乗る自転車の後ろに乗せてもらい、2人乗りで連れて行ってくれた。

彼と一緒に行ったのは、中1から中3の6年間で毎年楽しみにしていた。

あの大きくてたくましい背中をまた独り占めできる。

彼の後ろに乗って腰に捕まりながら花火大会が行われる場所まで行く間、すごくドキドキしながら彼に身を任せている時間が好きだった。

時間は短いがあの行き帰りのタクちゃんとの2人切りの時間に胸がときめいた。

もうすぐまた彼を私だけのものにできる時間がやって来る。

花火大会前日まで、そんな淡い恋心をずっと抱き続けていたのだ。

花火大会当日の夕方、午後8時の開始に間に合うように、午後6時30分頃、私の家に迎えに来てくれる約束をしていた。

私は4年前の花火大会の時にも着ていった白いワンピースに着替え待っていた。

30分を過ぎてもまだ来なかったので、少し心配になって早めに外に出て待つことに。

すると、10分ほど遅れた頃に、少し慌てた様子で立ち漕ぎをしながら、タクちゃんが見覚えのあるグリーン色の自転車で迎えに来てくれた。

「ごめんごめん、この自転車乗るの久しぶりでタイヤの空気が抜けていたから、慌ててさっき入れていたところなんだ」

確か4年前の最後の花火大会の時もこのグリーン自転車に乗って行ったんだった。

予定より10分以上も遅れてはいたが、そんなことよりも、今からこの自転車でタクちゃんの後ろに乗って花火大会に行くのが待ち遠しかった。

私の早る気持ちに合わせて、胸の鼓動がドクドクと早く鳴り始める。

「さあ、早く乗った乗った。予定より遅れちゃってるから少し急ぐよ」

そう言われたので、私は後ろに乗ると両腕をタクちゃんの腰に回してしがみつき、抱き寄せるように背中に顔を密着させた。

「落っこちないようにしっかり捕まっておけよ。幸恵は結構どんくさいんだから」

何を言われようと今の私の耳には一切に入ってこなかった。

とにかくこれから始まる自転車デートに胸がはちきれんばかりドキドキしていたのだ。

自転車が会場に向けてゆっくりと走り出す。

やっぱり相変わらずタクちゃんの背中は大きくて温かい。

久しぶりに体に捕まって気づいたんだけど、なんだか以前より背中が大きく感じた。

縦にも横にも高3の時よりも、一回り大きくなっているようだった。

たぶんライフセーバーを目指してトレーニングもしているだろうから、全体的に筋肉がついて、分厚くてたくましい体つきになってきているんだろう。

Tシャツごしからも彼の肉体の成長ぶりが伺える。

そして、タクちゃんの体からはシトラス系の香りがした。

高校時代から彼がつけている制汗剤の香りでとても懐かしい気持ちとともに、その香りで頭が軽くぼーっとして心地よくなっている自分がいる。

地元の花火大会が行われる会場までは、自転車で大体20分ぐらいはかかる。

この長いようで短いわずか20分の時間が、本当の恋人同士のような気分になれた。

彼の体に密着し、時間がたつにつれて、心臓の鼓動がますます大きく早くなる。

普段の2倍、いやその3倍ぐらいのスピードで鼓動が激しくなり続けている。

自分でもあまりの鼓動の大きさで、体がかすかに振動している感じがした。

この鼓動の振動が密着したタクちゃんの背中に伝わっているんじゃないかと思うと、恥ずかしくて体中が火照って熱くなってくるのがわかった。

このままこの夢のような時間がずっと続けばいいと思っていが、あっという間に20分間の恋路の旅は終着地にたどり着いてしまったのです。

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