良く晴れた秋の気持ちのいい日曜日、
20代後半の二人だが、住んでいるところが田舎だけあって、周りに遊ぶようなスポットはあまりない。
そのため、休日どこかへ出かけようとすると、大体ショッピングセンターや駅の周りになってしまう。
今日もいつものようにショッピングセンターに来ていたが、目的はいつもと少し違った。
「へへ……雅史、お誕生日おめでとう♪今日は何でも、欲しいもの言ってね!高すぎるものはちょっと、買えないかもしれないけど……」
「気持ちだけでも嬉しいよ、ありがとな」
雅史に優しく頭を撫でられて、彩乃は嬉しそうにほほ笑んだ。
今日は、二人が付き合ってから二回目の雅史の誕生日だった。
普段はあまり物欲がない二人だが、せっかくの誕生日だから何か記念になるプレゼントでも、と彩乃が雅史を誘ってショッピングに来たのだった。
雅史の運転する車が駐車場に止まる。
天気のいい日なので、と屋上に止めると、そこは数台ほどしか車が止まっていなかった。
休みの日だというのに、どうやら今日はショッピング客が少ないようだ。近くで道路工事をしていたから、もしかしてそれが原因かもしれない。
「なんか人少なそうだね、ゆっくり選べそう♪」
彩乃が言うと、雅史がくすりと笑った。
黒髪に眼鏡をかけた雅史の優しい笑顔が、彩乃は好きだった。
優しくて、穏やかで、高校時代は野球部のキャプテンをしていたという雅史は、後輩にもよく相談をされるような人柄だ。
それでいて仲良くなると、少し少年のような悪戯っぽいところもある。
彩乃にももちろんとても優しくて、文句のない彼氏だった。
「欲しいもの、ちゃんと言ってね!」
彩乃の足取りは軽く、雅史を引っ張るようにして歩いていく。
いいプレゼントが買えるといい、そう思っていた彩乃だが、雅史が足を運んだ店は想像していた場所とはまるで違っていた。
「え……?だって、雅史の誕生日だよ?」
「いいんだよ、俺の誕生日だからこそ、プレゼントさせてよ」
彩乃と雅史は、女性の下着売り場にいた。
周りの店舗よりも面積が広い店で、いくつも試着室が並んでいる。
実用的なものから華やかなものまである、女性に人気のブランドだった。
店員は二人いたが、接客に出ているのか彩乃と雅史に声をかけてくる様子はない。
戸惑う彩乃に、ほら、と雅史が下着を見るように促した。
「でも、悪いよ……」
「いいんだって、かわいい下着つけてる彩乃、俺みたいし」
「そ、それならいいけど……」
折角の雅史の誕生日なのに、とは思ったが、この後他の店を見ればいいか、と彩乃は思いなおした。
折角だし、雅史の好きな下着を選んでもらおう――目の前にはたくさんのかわいい下着が並んでいる。
そういえば、今まで下着を雅史に選んでもらったことはない。
いくつか手に取って眺めていると、雅史が彩乃の手を引っ張った。
「なあ、これとかどう?」
「えっこれ!?」
雅史が指さしたのは、黒いレースのショーツだった。
布の面積が狭く、普段使いというよりはセクシーさに重きを置かれたデザイン。
セットになったブラジャーも高級そうな黒のレースで作られていて、今まで彩乃が着けたことのないようなデザインだった。
「試着してみてよ」
「う、うん……」
恥ずかしいが、今日は雅史の誕生日だ。
それに、雅史がこういう下着が好きというなら、着けて喜ばせてあげたい――そう思った彩乃は、店の奥の試着室へと向かった。
通路からすぐに入れる店舗部分と違い、試着室は奥まった場所にある。
そして、下着売り場だからか布で仕切られた簡単な試着室ではなく、個室のようにドアがついている広めの作りだった。
試着室に入り、ブラジャーを付けてみる。
値段も高いだけあって着け心地はとてもよく、綺麗に谷間もできるブラジャーだ。
彩乃の白い肌に黒のレースが良く映え、普段よりもずっと色っぽく見えた。
ショーツは試着はしないが、これならきっと雅史も気に入ってくれるだろう。
鏡で自分の姿を確認して、着替えようとした時だった。
がちゃり、と音がして――雅史が、するりと試着室に入り込んできた。