恋のはじまり

ハッピーチョコレート

「……と、いうわけで。渾身のチョコレートケーキを作ったわけですよ、伏見さん」

バレンタイン当日。

私は大学の構内で伏見を呼び出した。

「……それで?」

「家に忘れました」

いっそ開き直って胸を張る。

「お前アホなの?」

「うるさいな、と言いたいところだけれど、今回については否定できません……で、本題なんだけど、今日暇?」

「……家に取りに来いってか」

「話が速くて助かるー!」

「お前、渡すにしても雑すぎるだろ!せめて『届けていい?』くらい言えよ!」

「えー。だって私伏見の家行ったことないしー」

「俺だってお前の家知らんわ!」

「だから一緒に帰ればいいじゃん?ね?この後もう授業ないでしょ?うち来よ?」

ね?と小首を傾げておねだりすると、伏見は呆れたような……変な表情を作っている。

「……俺だけか?」

「え、何が?」

「今日、お前の家行くの」

「そうだよ?誰かほかの人呼んだ方がいい?」

お菓子をつくる手前、部屋はキレイにしたけれど、普段からあまり人を呼ばないので娯楽があるような空間じゃない。

「いやそういうことじゃ……――荷物取ってくるから、待ってろ」

質問の意図が図れないまま、私は伏見を待つことになった。

そして、彼が戻ってくるまでにはっとする。

(あれ、これって男を連れ込んだことになるんじゃ……)

不都合な事実がよぎったけれど、いや相手は伏見だし?

とよくわからない言い訳を自分にした――ことの始終を見ていた幸美ちゃんからすれば、私が全面に悪い、らしいけれど。

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