初恋は実らないとか言うけど、実る初恋もある
少なくとも、私は初恋を実らせることができた。
「サナちゃんだよね?」
そう声をかけられて振り返った私の視線の先にいたのは、でっぷり太った若い男性。
「え…っと」
首を傾げる私に、その男性は人の好さそうなニコニコ顔で、
「覚えてない?拓馬だよ?」
「え?タッくん?」
タッくんは幼稚園から小学校低学年まで、私と仲が良かった男の子だ。
優しくて強くて、上級生が相手でも虐められてる子や動物を助けるような正義感の強い男の子だった。
当然女の子からは人気があったし、友達も多かった。
私も彼が好きな1人だったけど、気持ちは伝えられないまま小学校3年生になる前にタッくんは引っ越した。
今、目の前にその初恋の人だったタッくんが立っているわけだけど、こんなに太ってたっけ?
「サナちゃん、全然変わってないなあ。変わってないってことはないか。きれいになったよね。あの頃も可愛かったけど」
………
………
「タッくんは…太っ…た…?」
………
………
思わず失礼なことを聞いてしまったが、タッくんは気を悪くした様子はなくてニコニコしてる。
「そうなんだよ。小学生の頃も太ってたけどさあ。最近はますます肥えて、健康診断で引っかかっちゃった」
「タッくん、太ってたっけ?」
「太ってたよ~。相撲取りのタクが俺の二つ名だったじゃん」
「そうだったっけ?」
私は戸惑っていた。
私の記憶にあるタッくんはイケメンでスラっとした体型の少年だった。
でも現実のタッくんは不細工ではないけどイケメンではなくて、スラっとしてなくてでっぷりした体型だ。
身長もそれほど高くない。
でも、優しい笑顔とこちらを安心させるような声は変わってない。
私は思い出と違うタッくんに少しガッカリしたけれど、彼への好感は変わらなかった。