不倫・禁断の恋

彼岸の恋人…

ここからは八重子さん自身の視点となる。

 

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女学校を卒業した翌日、心の準備ができていないうちに私(八重子)は白無垢を着せられて祝言を挙げました。

私の夫となる人はひろしという名前です。

無口でどこか陰気で、私が話しかけても「ああ…」「うん…」としか言わない人でした。

祝言を挙げたその日から、夫とその家族と住むことが決まっていました。

夫の両親は表面は明るく親切でしたが、どこかよそよそしさがありました。

夫の妹の寛子ひろこちゃんだけは、私と年齢が近いこともあって親しい態度をとってくれました。

初夜は最悪な思い出です。

夫はまだ未経験の私を気遣うことなく、強引にしてきたのです。

「痛い!痛い!」と私は何度も叫びました。

でも夫は表情を変えることすらなく、私を抱き続けました。

全て終わった後、夫は私のことを放り出すようにしてさっさと寝てしまいました。

私は嗚咽が漏れないように唇を噛んで泣きました。

翌朝、夫が起きないうちに私は井戸に行って手拭いで体を拭きました。

とにかく気持ちが悪くて、できればこのまま井戸に飛び込んでしまいたかった。

でもそれも怖かった。

井戸の側にしゃがんで泣いていると、誰かが私の背中を撫でてくれました。

寛子ちゃんでした。

寛子ちゃんは泣く私に何も言わずに、ただただ私の背中を撫でてくれたのです。

実家に逃げ帰ることもできるわけがなく、私は夫の実家で暮らし続けました。

夫は毎晩のように求めて来ましたが、とにかく痛いだけ。

求めて来る割に、いつの時間であっても私と話すことはありません。

義父と夫は昼間は仕事に行っていて寛子ちゃんは女学生だったので、昼間は義母と2人でした。

義父も義母も優しいのですが、どこか私を監視しているようでもありました。

その理由は、寛子ちゃんの話から何となく理解できました。

夫は私と結婚する前に、別の女性と結婚していました。

しかしある日、その女性は誰にも気づかれずに出て行ったとのことです。

夫や義父母は探しましたが、前の奥様はご自身の実家にも戻らずに消息を断ち、以後行方知れずとのことです。

義父母は私が逃げないように、見張ってもいたのでしょう。

私と夫が結婚して1年が過ぎた頃、私は1人で山菜採りに出かけました。

この頃は自由に外を出歩けましたが、門限は決められていました。

しかし門限内であれば比較的自由に外を動けたので、私はよく近くの山を散策していました。

その日は帰りたくありませんでした。

寛子ちゃんが親戚の家に泊りがけで出かけ、留守だったからです。

寛子ちゃんが留守の日は、何を考えているか分からない夫や義父母と4人です。

ともて憂鬱でした。

山を歩いていると、突然雨が降り出しました。

私は慌てて近くの洞に逃げ込みました。

中は薄暗かったのですが、それでも何とか中の様子を確認することができました。

洞の中には、私と同じくらいの年に思える青年が座っていました。

「すみません。雨が止むまで、ご一緒させていただいてもよろしいですか?」

そう尋ねる私に、青年は微笑みながらうなずきました。

「ええ、どうぞ」

中はそれほど広くなかったので、私は青年の隣に座りました。

「山菜、たくさん採れましたね」

青年は私の持つ篭を見ていました。

「ええ。義妹が好きなので、つい採り過ぎました」

そう言って、私は篭を地面に置きました。

「去年、山の下の家にお嫁に来られた八重子さんですよね?」

「ご存知でしたか」

「とても綺麗なお嬢さんだったので、印象に残っています」

私は思わず顔が赤くなりました。

改めて見た青年の顔は整っていて、優しげでした。

「あなたはこちらへは何をなさりに?」

「僕は写生のために参りました」

そう言って、彼はさまざまな絵が描かれた用紙を幾枚か私に見せてくれたのです。

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